株式会社MIRAIS-氏家祥(うじいえ・しょう)

【執筆者プロフィール】

氏家祥(うじいえ・しょう)
2004年、自動車整備専門学校卒業後、バイク販売会社に入社。整備、営業、店長などを経験し2008年に退職。2008年、軽貨物業界に入り、株式会社FOX(現MIRAIS)を重松・長谷川と共に立ち上げる。様々な現場でドライバーを経験した後、2013年、専務取締役に就任し、現在に至る。

    配送現場からの学び

    整備士の専門学校を卒業し、バイク屋で働きだしてから5年ほどが経った2008年10月。25歳の秋に、群馬から出てきた専門学校の同級生である重松社長の誘いで、私は全く知見のない軽貨物業界に飛び込むことになりました。

    なぜ、5年間勤めた職を辞めて、軽貨物業界への誘いを受け入れたのかというと、重松社長が楽しそうに働いている姿をみて、「なんか楽しそうな仕事だな」と率直に感じたのと、あとは単純にお金を稼げそうだったから。

    このように当時の私は、深く将来を考えることもなくこの業界に入り、「この業界で大儲けして、いつか自分のバイクメーカーを立ち上げられたらな」という壮大な夢を描いていました。

    この業界にきて私が最初に入った現場は、アイスの配送でした。正直に言うと、軽貨物業界に入る時は、業務に対して「軽貨物なら軽いものが多くて楽勝だろう!」と考えていました。

    しかし、実際に働き始めて、かなりハードな業務であるということはすぐにわかりました。

    アイス配送の業務は、まず軽貨物車両で倉庫に向かい、午前中は-30度の倉庫で仕分け作業をし、午後はスーパーへ配送します。午前と午後で業務する場所の温度差が約50度もあり、この環境に身体が慣れるまでは、本当に大変だったことを覚えています。

    ある程度アイス配送の現場に慣れてきたとき、アイスの配送業務が終わった後に酒の配送業務も行うようになりました。業務を掛け持ちした理由は、単純に生活していけなかったからです。
    当時の会社は、主にひ孫受けで仕事を受けていたためダンピングがとても大きく、私たちに入る運送料はとても安価な金額でした。その結果、一つの定期現場では生計を立てることができず、生活していくためには現場を掛け持ちせざるを得ませんでした。
    こうした自身の配送経験を通して、配送業務に従事する上では「身体が資本である」こと、そして、「営業努力を通じて荷主から適正価格で受注すること」の大切さを肌で感じることができました。

    会社設立期の充実・苦労・決意

    軽貨物業界に入って数か月後に、重松社長と専門学校の同級生である長谷川、そして私の3人で新たな会社「FOX」(MIRAISの前身となる会社)を立ち上げました。

    会社を設立はしたものの、設立当初はフリーのドライバー(業務委託)として、所属ドライバーさんの休み対応や増車対応、群馬支店の配送など多くの現場でフル稼働していました。当時はどの現場にもマニュアルがなかったので、現場の方に教わりながらぶっつけ本番のような状況で稼働している状態でした。

    FOX時代の社名の看板

    大手宅配や企業配、新聞配送に食品配送などなど、本当に数え切れないほどたくさんの現場を経験しました。この経験のおかげで、配送現場の種類や特性を理解することができ、どんな現場でも初見でそつなく稼働することができるようになりました。こうした配送スキルを身につけられたことで、ドライバーさんや荷主様が信用してくれるようになり、ひいては私自身の自信へと繋がっていったように思います。配送業務に関しては、とても充実した気持ちで取り組めていました。

    一方で、会社設立から3年経つぐらいまでは、配送現場が終わったら事務所にもどり、深夜まで事務作業を行うというハードな生活でもありました。また、夜中でも業務の電話に出なければならず、24時間対応していたため、その当時は年中寝不足でした。休みも少なく、最長で約120連勤したこともあります。
    日中の配送中も携帯電話を3台もち、常に電話をしながら配車業務や荷主対応などをしていました。とにかく電話が鳴りやむことはなく、着信履歴は1日で埋まり、誰から電話があったかも追えなくなってしまうような状態でした。

    さらに、業務面だけでなく金銭面でも余裕はなくなっていて、クレジットカードや携帯電話が止まることもあり、本当にぎりぎりの生活をしていました。会社のキャッシュフローも厳しく、今となっては笑い話ですが、私の報酬を社長がキャッシングして支払うなんてこともありました。少しでも経費を安くするため、車両のオイル交換やタイヤ交換、ブレーキパット交換等を自分達でやっていたことも今となっては良い思い出です。

    MIRAISでの歩みを振り返る~創業メンバーが語る“MIRAISと私”~2

    そんな会社・個人ともに金欠状況の中、28歳になった私は結婚をするという暴挙に出ます。「そんな状況で?」と思う方がほとんどだと思いますが、私としては深く考えずにこの業界に入った時とはすでに想いが大きく変化しており、「この会社を必ず大きくしていくんだ」という決意と覚悟ができたからこその結婚という決断でした。また、ほぼ同時期にFOXの「専務」にも就任しました。
    守る家族ができたこと、そして、会社の役員に就任したことにより、さらに仕事への意欲は増しました。同時に、「会社を大きくして、社員とDRを増やす」ことが私の明確な目標となりました。

    新たな仲間たちとの出会いが生んだ会社の成長

    設立から5年ほど経った頃には、売り上げが安定し、私が現場に出る回数も減っていきました。配送業務に関しては、新規現場の立ち上げや緊急対応がメインになり、自然と事務作業の割合が多くなっていきました。
    もともと数学が苦手で、パソコンも触ったことがないような人間だったので、経理や資料作成などの業務に慣れるまで、ものすごく時間がかかってしまいました。
    ただ、「苦手な業務でもチャレンジしてみる気持ち」と「諦めずに継続していくこと」の大切さは、こうした会社業務を通して理解することができました。

    氏家祥(うじいえ・しょう)とMIRAISの仲間たち

    6年目に入ると、さらなる会社の拡大を目指して支店を開設しました。まずは東京都大田区に大田支店を開設し、支店長には創業から一緒に働いてきた長谷川が就任しました。その長谷川からの紹介で、同年代の仲間が続々と大田支店で稼働するようになり、配送エリアは拡大を続け、売上も加速度的に増えていきました。

    売上が増えるスピード感はある程度、想定の範囲内ではありましたが、「信頼できる仲間の数」は私の想定をはるかに超えて一気に増えていきました。大田支店で増えた仲間たちは、信頼が厚く、今でもMIRAISの中核を担ってくれています。

    こうした仲間たちとの出会いが、会社の成長の原動力になったことはもちろんのこと、私にとっては、役員としての責任の重さを再認識し、意識をより一層高める大きなきっかけになりました。

    さらに、8年目に江東支店を開設したことで配送エリアは一層拡大し、23区東側と千葉エリアにも進出していきました。

    また、江東支店開設とほぼ同時期に、現在はMIRAISの副社長を務めている筒井が入社しました。公務員からの転職であったため、正直なところ「本当にうちでいいの?うちで大丈夫?」ととても心配になりました。
    その1年後、重松社長から「筒井を副社長にしたい」と相談を受けました。その提案に対して、何の抵抗もなく「それが良いと思う」と伝えたことを覚えています。私自身、副社長の人柄・知識・想いがこの会社にとって必要であることを1年一緒に働いてよくわかっていたからこそ、自然と受け入れることができたのだと思います。

    その筒井副社長がMIRAISに入って以降、会社の組織化を進めてくれたおかげで、会社としてのルールや管理体制が整いました。以前の「パワーと勢いだけでどうにかする」という会社の体質はがらりと変わり、私としても「会社を運営している」と初めて実感することができました。副社長の存在は大きく、何かあったときはすぐに相談ができるとても頼もしい上司です。

    MIRAISにおける私の使命

    最後になりますが、私には飛びぬけた能力はありませんし、高い学力があるわけでもありません。愛想がいいわけでもないし、体力が人一倍あるわけでもない。しかし、私には誰にも負けないと言える武器が一つあります。

    それは、「会社と従業員を思う気持ち」です。繰り返しになりますが、この気持ちだけは誰にも負けないという自負があり、この気持ちは生涯失うことはありません。

    今回、創業期から今までを振り返ってきましたが、改めて様々な成功や失敗、充実と苦労があって今のMIRAISがあるのだと感じました。また、今に至るまでのMIRAISの歴史は、多くの仲間たちのお陰でつくられたものだとも思っています。そして、その会社の歩みの全てを私はみてきました。だからこそ、私は誰よりもこの会社を大切に思い、従業員に恩返しをするという気持ちを持ち続ける責任があると改めて強く感じています。

    これからも「どうすれば会社がよりよくなるのか」、「どうすれば従業員をより豊かにできるのか」を常に考え、追求していきたいと思います。さらに、“「会社と従業員を思う気持ち」を一人でも多くの従業員に継承していくこと”を私にしかできない使命ととらえ、会社全体にこの想いが波及するよう努めていきます。


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