軽貨物運送業において、依頼主である荷主と実配送を担うドライバーとのパイプ役になるのが、MIRAISのような『軽貨物配送サービスあっせん業者』(以下、軽貨物業者)です。

荷主・ドライバーの両者と密接に関わる立ち位置という観点からも、軽貨物業者は「軽貨物運送業の社会的地位向上」を実現していくうえで、極めて大きな責任と影響力があると考えています。

では、それだけ重要な責務を担っている軽貨物業者の実態はどうでしょうか。

「クライアントである荷主の信頼に足る企業経営に努めているか」、「ドライバーに対して、業務を委託する側の責任を果たしているか」といった問いに対して、自信をもって回答できる軽貨物業者はどのぐらいあるのかというと、残念ながら決して多くはないというのが現状だと感じています。

こうした現状において、軽貨物運送業界が社会から尊重され、多くの人から魅力を感じてもらえる業界へと変革していくために、我々、軽貨物業者は何をすべきなのでしょうか。

他業種から軽貨物運送業界に参画した身として、このテーマに対して抱く想いや考えを述べていきたいと思います。

筒井副社長(株式会社MIRAIS)

【執筆者プロフィール】

筒井陽世(つつい・ようせい) 2006年、大学卒業後、UFJニコス(現、三菱UFJニコス)株式会社に入社。その後、教師になることを志し、同社退社と同時に大学の通信教育部に編入学。2009年、教員免許状を取得し、教員採用試験に合格。2010年から公立中学校の社会科教諭として6年間勤務し、退職。2016年、株式会社FOX(現、MIRAIS)に入社し、戦略事業部長に就任。2017年、取締役副社長に就任し現在に至る。

    「会社」として組織する

    私がこの業界にきて、まず初めに感じたことは、「会社という体をなしていない軽貨物業者が多い」ということでした。当社も例外ではなく、本来「会社」として備わっているべきしくみの多くが欠落していました。私が当社に入社して最初に取り組んだことは、端的に言うと「MIRAIS(当時FOX)という集団を“会社化”する」ことでした。

    当然のことながら、会社を運営していく上では営業・財務・労務・法務などのガバナンスの確立や、コンプライアンス遵守のためのルールづくりが必要になります。実務的な分野以外においても、従業員の教養レベルを向上させるための教育制度や知財管理に関する体制づくりなど、会社として備えるべき重要なしくみは多岐に渡ります。

    筒井副社長

    こうした「会社として備えるべきしくみ」を正しく理解し、構築している軽貨物業者があまりにも少ないというのが最初の実感でした。また、この業界にきて5年経ちますが、こうした観点における社会的要請は日々強まっているにも関わらず、今もなお、業界内の企業統治に関する水準は、あまり変化していないというのが実情だと感じています。

    ・ドライバーの免許や車検の期限を適切に管理できているか

    ・支払遅延を発生させないためのキャッシュフロー管理ができているか

    ・従業員の就業時間、休日や休暇の取得状況を管理しているか

    ・過大広告と捉えられるようなドライバー募集の広告を出していないか

    これらのことは、会社として、そして、配送というインフラサービスの担い手として、当然にして対応すべき事項の一例です。

    軽貨物業者は荷主から配送業務を受託して、ドライバーに業務を委託しますが、

    “委託しているドライバーは、本当に有効な免許証を保有していますか?”

    “資格が有効であることのエビデンスを依頼主である荷主に提示することはできますか?”

    業務に車両を使用するにも関わらず、この車両に関する資格管理さえも怠り、「きっと大丈夫だろう」という認識のレベルで業務を委託しているようでは、当然のことながら荷主からの信用を得ることはできません。

    また、過大広告を信じ応募してしまったドライバー希望者が、広告内容と実態とのギャップを知った後に、周囲に対してこの業界の事を良く伝えることもないでしょう。

    こうした「会社」として備えるべき制度を構築していくことや、「会社」として守るべきモラルに則った行動をしていくことが、我々、軽貨物業者には必要なのではないかと思います。また、そう変革していかなければ、業界自体が社会全体から信用されることは、決して実現できないとも強く思っています。

    「プレイヤー」から「マネージャー」へ

    では、なぜ軽貨物業界には、「会社」として組織できていない軽貨物業者が多く存在しているのでしょうか。その原因は、この業界特有の「企業の成り立ち方」と「リーダーのマインド」にあると思います。

    貨物軽自動車運送業は参入障壁が低く、個人事業主の配送ドライバーとして開業しやすいという特徴があります。個人事業主となったドライバーは、自らが「プレイヤー」となって配送業務を務めることになります。

    筒井副社長

    ここで、配送能力が高い個人事業主の“ドライバーA”がいると仮定します。

    ドライバーAは、他者よりも多くの荷物を配送することができ、その分報酬も高くなります。質の良い配送サービスを提供し続けることは荷主からの信用へと繋がり、ドライバーAには業務の依頼も集中することになるでしょう。

    やがて、ドライバーAは少しでも多くの業務を遂行するために、他のドライバーに業務を委託するようになります。このように「個」から「集団」へと規模の広がりが生まれていくのが、この業界のオーソドックスな企業の成り立ち方と言えます。

    筒井副社長とMIRAIS従業員

    では、この企業が誕生するタイミングで最も重要なことは何か。それは、ドライバーAが「プレイヤー」という立場から「マネージャー」という立場に変化していることに、ドライバーA自身が気づくことです。すでにドライバーAは「ドライバー」ではなく、集団を組織する「マネージャー」であり、他者を率いる「リーダー」なのです。軽貨物業界においては、このように自身のマインドを変化させることができている人が少ないように感じます。

    「より多くの荷物を正しく早く配送できる人」と「より多くのステークホルダーから信用される企業経営をする人」は、決してイコールにはなりません。よって、問われる能力も「プレイヤー」としての“配送スキル”ではなく、「マネージャー」としての“マネージメントスキル”になります。

    軽貨物運送業におけるリーダーになった時点で、そのリーダーは自身のマインドを正しく変化させ、マネージメントに関する知識やスキルを習得し、実践する必要があるのです。この点をリーダー自身が理解せずに、優秀な「プレイヤー」の延長線上で軽貨物運送業を営んだ場合、残念ながらその集団は「会社」と呼べる組織にはなり得ません。

    社会全体から「しっかりした業界」と思ってもらうためには、その業界に存在している会社自体が「しっかりした会社」でなければなりません。軽貨物業者のリーダーが優秀な「プレイヤー」から優秀な「マネージャー」へと変貌を遂げ、正しく「会社」を経営していくことは、この業界の社会的地位向上を実現する上では必要不可欠であると同時に、実現への一番の近道であると思っています。

    軽貨物運送業の社会的地位向上へ

    先述した通り、軽貨物業者は荷主とドライバーの両者と深く関わる立場です。言い換えると、両者に対して様々なアピールをすることができる立場であるとも言えます。

    軽貨物業者が「単なる配送業務の横流し」という認識で「あっせん」を捉え、業務を行っているのであれば、両者に対してアピールできることは何もないでしょう。

    しかしながら、軽貨物業者が請け負う責任と委託する責任をしっかりと認識し、その責任を果たすことができる組織化された「会社」になっていれば、荷主とドライバーに対して様々な良い影響を与えることができるはずです。

    筒井副社長

    例えば、荷主に対しては「送り届ける」というニーズに加えて、「品質」や「安心感」などの付加価値を提供することができます。軽貨物業者がこういった付加価値を増やし続けることができれば、荷主の満足度は向上し、それが運賃向上の機運に繋がる可能性はあります。ひいては、経済的な面においても優位性を保つことができる業界へと変えることができるかもしれません。

    ドライバーに対しては、資格や情報の管理、多岐に渡る教育の実践を通して、業務遂行レベルや責任感の向上を図ることができます。これは、個々の配送シーンにおけるエンドユーザーのドライバーに対する「印象」を変えることに繋がり、結果として、社会全体からの業界の見られ方にも大きな変化を及ぼすことになるでしょう。

    このことからもわかるように、軽貨物業者は業界の社会的地位向上という観点において、極めて重要な役割を担っているのです。だからこそ、この事実を軽貨物業者はしっかりと自覚し、正しい会社運営を実践していくことが大切だと思います。

    軽貨物車両

    私たちMIRAISは、この業界に携わる人たちが想いと意識を高め、力を合わせて行動していけば、“『配送料無料』と謳われることが当たり前の世の中”を変えることができると信じています。そして、軽貨物業者はこのための動きの先頭に立つべき存在です。軽貨物運送業を、社会から尊重され、多くの人から魅力を感じてもらえる業界へと共に変えていきましょう。