令和5年12月26日、国土交通省は「貨物軽自動車運送事業者に対する今後の安全対策 」を発表し、軽貨物運送事業者への規制を強化する方針を打ち出しました。

この記事では、規制強化が行われることとなった背景や、現在検討されている対策案の具体的内容について解説していきます

※この記事は令和6年5月時点の情報をもとに作成しています。

軽貨物運送事業者の安全対策の規制強化を打ち出すこととなった背景

EC市場の拡大・取り扱い個数の急増

引用:EC市場の推移・規模、宅配便取扱個数・再配達率(振り返り) |国土交通省

EC市場の拡大に伴い、宅配便取扱個数も急増(直近5年間で17.8%増加)。 他方、宅配便の不在再配達が全体の約11〜12%程度発生。

国土交通省から発表された、近年のEC市場規模や宅配取り扱い個数、再配達率に関する推移のデータから、以下の現状が読み取れます。

近年の著しいEC市場の拡大から、宅配便の取り扱い個数が2017年度から2022年度の5年間で17.8%(約7.6億個)も増加しています。上記のグラフを見ればその勢いの凄まじさがわかります。そして、軽貨物ドライバーを悩ます再配達が現状、約11〜12%程度発生していて、2019年から2020年にかけては減少傾向だったものの、近年ではまた上昇傾向をたどっています。こうしたことから、軽貨物事業者の労働環境が年々厳しくなってきていることがうかがえます。

軽貨物車の死亡・重傷事故件数は平成28年以降増加傾向

さらに、事業用貨物自動車の死亡・重傷事故件数の推移(振り返り) について、以下の統計の発表がありました。

引用:事業用貨物自動車の死亡・重傷事故件数の推移(振り返り)|国土交通省

事業用貨物自動車のうち、軽貨物の死亡・重傷事故件数は平成28年以降増加傾向である一方、軽貨物以外は減少傾向。 

事業用貨物自動車の死亡・重傷事故件数について、軽貨物以外は減少傾向をたどっていますが、軽貨物においては平成28年以降の7年間、上昇傾向をたどっています。

軽貨物運送事業者の「コンプライアンス意識の低さ」

引用:貨物軽自動車運送事業にかかる実態調査|国土交通省

令和5年3月から1か月程度、首都圏、近畿圏の貨物軽自動車運送事業者(10,000者)の中から、個人事業主を無作為に抽出し、WEBアンケートを実施。2割弱は、住所不明などにより不達で、有効回答数は772者。

● 運行管理(酒気帯びの確認を含めた点呼の実施等)の実施状況は、「実施している」と「ある程度実施している」が75%を占める一方、「実施していない」も25%認められる。

● 日常点検および12ヶ月ごとの定期点検の実施状況は、「実施している」が70%となる中、「実施できていない」と「実施していない」も30%認められる。

● 拘束時間、休憩時間等の遵守状況は、「遵守している」と「ある程度遵守している」で61%を占めるものの、「基準は理解しているが、遵守していない」が25%、「基準を知らなかったため、遵守していない」も14%認められる。

こちらの実態調査では、酒気帯び確認(アルコールチェック)や日常点検、定期点検の実施が行われていなかったり、拘束時間や休息期間などに関して労働時間がしっかりと守られていないといった結果がでています。また、“必要である”ことへの認識自体が足りていないことも合わせて読み取ることができます。

軽貨物の死亡・重傷事故件数が増加している原因の一つとして、こういった「コンプライアンス意識の低さ」が関係していると考えられています。

軽貨物運送事業者の「交通安全に対する意識の低さ」

引用:事業用貨物自動車の法令違反別事故件数|国土交通省

● 事業用貨物自動車のうち、軽貨物保有台数1万台当たりの法令別違反件数を見ると安全不確認 が最も 多く、軽貨物以外の約2.2倍。
※前方、後方、左右の安全確認が不十分であった事故。

● 加えて、軽貨物は軽貨物以外と比較して、「優先通行妨害」、「歩行者妨害等」、「一時不停止」といった法令違反が多いことが特徴。  

交通違反による事故件数では、「安全不確認」が他の法令違反による事故件数よりも圧倒的に多く、また軽貨物以外と比較して2.2倍以上発生しています。

安全不確認による事故は、ドライバーの安全運転に対する意識次第で軽減できる可能性が十分にあり、言い換えると、このデータからは軽貨物ドライバー自身が安全運転の意識を高めていく必要があるということが見て取れます。

現在検討されている安全対策

このような現状を改善すべく、現在、国が検討している安全対策5つを下記に引用します。

貨物軽自動車安全管理者(仮称)の選任と講習の受講の義務付け 

営業所ごとに「貨物軽自動車安全管理者(仮称)」を選任し、以下2つの講習受講を義務付ける。※バイク便事業者を除く
〇管理者講習(仮称)
管理者の選任にあたり受講
〇管理者定期講習(仮称)
2年ごとに受講

国土交通大臣への事故報告の義務付け

死傷者を生じた事故等、一定規模以上の事故について、運輸支局及び運輸局を通じて国土交通大臣への報告を義務付ける。

一般貨物事業者等に対して義務付けている事項の準用。(事故の報告の対象など詳細については今後検討)

国土交通大臣による輸送の安全情報の公表 

事業者に対して発出した輸送の確保命令や行政処分の情報等を、国土交通省HPにて公表する。 一般貨物事業者等に対して実施している事項の準用。

運転者への適性診断の受診を義務付け 

一般貨物等の運転者に義務付けている適性診断を軽貨物の運転者にも義務付ける。
※バイク便事業者を除く

一般貨物事業者等に対して義務付けている事項の準用。現在適性診断を実施している認定機関は全国で約130。

〇初任診断(業務開始にあたり受診)

〇適齢診断(65歳以上の運転者が3年ごとに受診)

〇特定診断(事故を起こした場合に受診)

業務記録及び事故記録の保存義務付け

〇毎日の業務開始・終了地点や業務に従事した距離等を記録した業務記録を作成し、1年間の保存を義務付ける。

〇事故が発生した場合、その概要や原因、再発防止対策を記録し、3年間の保存を義務付ける。

一般貨物事業者等に対して義務付けている事項の準用。

新たな安全対策として検討中の安全対策 

引用:貨物軽自動車運送事業と一般貨物自動車運送事業の制度の主な比較|国土交通省

まとめ

現在検討されている安全対策の実施が決定された場合、全軽貨物事業者に大きな影響があることは確かです。「貨物自動車安全管理者の選任」や「安全管理講習の受講」は、個人ドライバーの場合、本人が管理者を務め、講習を受講する必要があるとされています。個人ドライバーにとっても大きな変革が求められる規制強化になると考えられます。

規制強化は捉え方によっては、負担と感じられるかもしれません。しかし、安全や品質への意識が低い事業者がそのままの状態でいてしまうと、業界全体の社会的評価が下がってしまう恐れがあります。軽貨物運送事業に関わる人たちが適切な対策を取り、安全と品質を守ることで、軽貨物運送業の社会的評価を高めていくことが大切です。

現在の状況を真摯に受け止め、今後の安全対策に前向きに取り組む姿勢が求められてくると思います。

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