現在、日本には数多くの企業が存在します。その全企業のうち中小企業が占める割合は、全体の約99.7%にもなります。従業員数でみても従業員全体の約70%が中小企業に所属しており、人々の「暮らし」や「雇用」の観点からみても、中小企業はまさに日本経済を支える存在となっています。

今回は、中小企業診断士としてこれまで様々な企業をみてこられ、また、産業能率大学経営学部の准教授として日々、中小企業に関する講義をされている新井准教授に“中小企業経営の魅力”や“今後の課題”などをテーマに、対談形式でお話をお伺いしました。専門家視点からのお話はとても興味深く、参考になるお話ばかりでした。ぜひ、ご一読ください。

産業能率大学 経営学部
プロフィール

新井 稲二(あらい いねじ)
産業能率大学 経営学部 准教授

「中小企業診断士」の資格を保有。自身も産業能率大学経営学部の出身で、大学卒業後は神奈川県内地域金融機関での勤務を経験。現在は、産業能率大学経営学部の准教授として各種講義を担当。

中小企業経営の魅力とは

編集部:中小企業に関する分野がご専門ということで、興味深いお話をたくさん聞けると思い、編集部としてもとても楽しみにしております。よろしくお願いします。では、早速ですが、中小企業経営の魅力とはズバリどういったところでしょうか?

新井教授とMIRAIS重松社長

新井准教授:個性的な会社が多いのかなと思います。

もっと言えば“人”としての魅力が備わった経営者の方がたくさんいらっしゃるので、1社として同じ会社はなく、そこが中小企業の“魅力”だと思います。

経営者には性別、年齢等が異なる様々な方がいらっしゃいます。特に最近は、「自分の想いを広めていきたい、伝えていきたい」そういった想いをもって起業、創業する人が増えてきていますね。

重松社長:私も異業種交流会などで中小企業の経営者と会う機会がありますが、どの経営者も情熱や強い想いをもっていると感じます。考え方も様々なので、こういう考え方もあるんだなというのはすごく自身の経営のヒントにもなりますね。

新井准教授:先日、中小企業交流会にお呼ばれして、ある企業の会長のお話を聞く機会がありました。その方は経営者として駆け出しの頃は、周りの友人が大企業に勤めて、いい給料をもらっているという話を聞くと、正直、モヤモヤとした時期もあったそうですが、今では一生涯働けるこの「家業」を継いで良かったと思っているとお話されていました。こういった部分も中小企業経営の魅力の一つですね。

重松社長:私も創業期に抱いていた気持ちは共感する部分があります。創業して間もない頃、大企業で働いている友人から「なんでそんなことやってるの?」、「軽貨物ってダサくね?」と言われたことを思い出しました。私もかつてはそういったモヤモヤした時期がありました。しかし、今は「もっと早く会社を成長させないといけない、大きくしていきたい」と強く思っています。
ただ、一方で、果たして本当に実現できるのか、不安だったり色々な葛藤もあったりして…。

新井准教授:経営者の中には「先が見えない」というところで悩む方もいらっしゃいます。
それは悩んでも答えが出るものではない場合もある。最近でいえばコロナですよね。まさかこんなこと、そしてこんなに長く続くとは誰も思いもしなかったことなので。でも、そういったことを経験した方は、さらに人にはない“魅力”が備わっていくのだと思いますね。

大企業と中小企業の経営の違い

編集部:先ほども大企業というワードが出ましたが、大企業の経営と中小企業の経営での違いはどういったところですか?

新井准教授:最近、いわれているのはガバナンス(企業統治)ですね。特に大企業においては厳しくなっている。でも、そういったルールでがんじがらめの中、経営者をやっている人は「果たしてそれは本当に自分がやりたかったことなのか?」というところは強く思いますよね。学生と話をしていますと、収入だけで仕事を決める人は減ってきていると感じます。何を基準に考えるのかというと“やりがい”だったり、“自分のスキルアップ”です。
そういったお金に代えられない部分を重要視している学生が非常に増えてきている。

大企業のようにルールで縛りすぎるのではなく、やりがいやスキルアップを生み出すことができる時間や人としてのある程度の余裕をもたせる。こういったことがやりやすいのは中小企業ならではだと思います。

ただ、裁量がある分、経営者として魅力があるかどうか。経営者といわれる人たちの素質に左右されてしまう。ここが大きな違いだと思います。

重松社長:恥ずかしながらMIRAISも創業してからしばらくは、全くルールがありませんでした。その中で今のお話を聞いて思うのは、中小企業でも規模感やフェーズによって、ルールを整備していかないと経営がやりづらいということを感じているのですが、そのあたりについて先生はどのようにお考えですか?

新井准教授:もちろんそうです。先程、ガバナンスで大企業は縛られているという話をしましたけど、逆説的にいえばそういったルールの枠組みの中に入っていれば効率的に動かすことができる。会社の規模が大きくなってくるにつれてルールも複雑化していく。それは効率が必要になってくるからです。企業規模とルールはある程度、比例してくる、これはやむを得ないと思いますね。

中小企業で求められる経営者の素質

編集部:次にお聞きしたいのが、中小企業経営において求められる経営者の素質はどういったところですか?

新井准教授:これは以前YouTubeに出演した際にもお話しましたけど、

“誠実さ”ですよね。この部分は大企業にも共通していると思います。

※新井准教授は弊社のYoutubeチャンネル『しごとの授業』にご出演いただいています。

『しごとの授業』准教授編<前編>

『しごとの授業』准教授編<中編>

『しごとの授業』准教授編<後編>

編集部:(重松社長を指差して)大丈夫ですか?

重松社長:私は誠実ですよね?笑

新井准教授:これはYouTubeの時の流れですよね。(笑)日本の会社は大体350万社ある中で、様々な個性をもった方が経営者として活躍している。その方の一部だけを切り取って“誠実”、“不誠実”というのは正確ではないですが、求められる資質の部分においては「誠実である」これは非常に大事なことかと思います。知識は時間とお金さえあればいくらでも補うことができますが、定性的な部分はなかなかそういうわけにはいかない。「人としての素質」はこういった時代だからこそ昔よりもさらに求められてくると思いますね。

重松社長:中小企業の場合は規模が小さいがために経営者が関わる人(従業員、クライアント)との距離が近く、関わる人も多いからこそ“誠実さ”が求められるということですかね?

新井教授とMIRAIS重松社長③

新井准教授:それもあると思います。大企業で管理職をやられている方の中にはふんぞり返っている方をみる機会もあります。経営者が誠実であってもそういった状態だとはっきり言って意味がないですよね。中小企業では大企業よりも経営者個人の色が出やすい。そのため、より経営者の資質を求められるのだと思います。

重松社長:個人的な質問で恐縮ですが、中小企業でこうやったら経営理念を浸透させやすいというのはあったりしますか?

新井准教授:これは経営者や従業員、あとは業種によって全く違ってくると思います。よくあるのは「朝礼で経営理念を斉唱」というのがあると思いますが、それが今、IT系の会社で通用するかというと、そうではないと思います。では、全業種においても通用しないのかというと、これもそうとも言い切れない。さらには取り組み方によっても違いがでてくると思います。従業員が経営理念を斉唱する時に「言われたからやるか…」これでは全く意味がないですよね。逆にある程度、経営理念が浸透している中で「斉唱しよう」ということであれば、それは非常に効果があると思います。

重松社長:今、弊社では月に一回の全体会議で「使命」、「経営理念」、「行動指針」の三つを従業員に書かせたりしています。また、私が個人的に取り組んでいることとしては、この三つを実践するためにはどうすべきかということをなるべく声に出すようにしています。今後の理想としては、従業員が業務で課題を抱えた際、MIRAISの使命、経営理念、行動指針からどうすべきかを考え判断し、自身で課題を解決していけるようになればと思っています。

新井准教授:教育の部分は難しいところですね。お金をかければいいというものではないですが、一方で投資の効率がいいという話ではあると思います。難しいのは客観的な結果をどうやって測定するのかというところです。会社ですから費用対効果が大事になってきますが、教育的な領域はそれを測定することが難しい。ただ、私の経験上では会社が永続することを前提にした時に最も効率がいい投資は、やはり人に対する投資、つまり教育に対する投資になりますね。

中小企業が取り組むべきことや経営する上で注意すべき点

編集部:次に、中小企業が取り組むべきことや経営する上で注意すべき点はどんなところ
でしょうか?

新井准教授:専門家といわれる人たちによるアドバイスを鵜呑みにしてはいけないと思います。例えば、専門家の人が御社のいる業界における「専門的なこと」そして、「今」をどこまで知っているのか?というところ。多分、重松社長の方が詳しい。なぜなら、現役の経営者で常に業界の動向をみている。その分野の専門家は業界のOBが多く、過去の経験からのアドバイスをするという形が一般的です。

重要なのはそれを鵜呑みにしないというところ。提案してくるものに対して、何でもかんでも「これでいい」と思ってしまう経営者もいらっしゃいますが、そうではなくて、一歩立ち止まって考える。経営者も学び続けなければいけない。

考えずにとにかく走る経営者の方はまだまだいらっしゃいます。それは先々の不安から結果や解決策を今すぐ欲しいという思いから。気持ちはすごくわかります。ただ、自分で考えることをやめて失敗してしまった場合、責任は経営者が取らなくてはいけない。ですので、まずは提案されたことに対しては自身でよく考えてもらいたいと思います。

重松社長:創業期は知らないことがかなり多かったので、鵜呑みにして進んでしまうこともありましたけど、従業員が増えてくると、より失敗が許されない。従業員の雇用はもちろん、その家族も守らなければいけない。先生のお話でもあった通り、勉強することもそうですし、信頼できる方からの助言でも、ひとつの意見として聞いた上で最終的には自分がしっかり考えて結論を出す、決断するということはすごく意識していますね。

新井准教授:最終的には決断するからこその経営者ですから。従業員の前でずっと迷っていると従業員は不安になってしまいます。そういった意味では経営者の辛いところは「弱いところをあまり見せられない」、こういった部分のプレッシャーは強いのかなと思いますよね。

重松社長:日々勉強しながら頑張ります。

中小企業経営における今後の課題

編集部:最後に、中小企業経営における今後の課題はどういったところだとお考えですか?

新井教授とMIRAIS重松社長③

新井准教授:「課題」というのは常にゼロにすることはできないと思います。私が教わった方の理論では、中小企業は“発展性と問題性の統一物”だと仰っていました。

「発展」といういい面で物事を議論される方もいらっしゃるし、「問題」という面で議論される方もいらっしゃる。でも、どちらも間違いではないんですよね。この二面性をどう捉えていくか、どのようにコントロールできるか、これが中小企業における課題だと思いますね。

重松社長:考えもしないような角度のお話だったので非常に勉強になります。私は軽貨物業界しかみていないのですが、この業界の中小企業における「発展性」という部分では、やはりEC市場の拡大に伴い配送サービスのニーズが急拡大しており、会社を発展させやすいという面が挙げられると思います。一方で、この業界の中小企業の「問題性」として思うのは、安易に会社を立ち上げる方が多いということです。そういった方は「会社をこうしていこう」という強烈な想いがないので、うまくいかなかったらすぐに会社を潰してしまう。そういう観点からも、強い想いをもって会社経営することは、私としてはすごく大事なことだと思っています。プロの先生の視点からはどういうご意見ですか?

新井准教授:まさにそういったところって経営理念に繋がってくると思うんですね。すぐ辞めてしまうことを否定するつもりはないです。その人の人生ですから。ただ、起業、創業するのはそれなりのリスクや負担があると思います。一人でやるならいいでしょうけど、家族がいる人は家族の将来というところも含めて考えれば、人生の中でもかなり重要な決断になってくると思います。ですので、安易に起業することを私はあまりお勧めしないです。自分だけの人生ならそれでいいと思いますが、人間は一人で生きていくことは確実に難しいわけです。周りの人たちをどうやって巻き込んでいくか、その先に企業として成長するか、していかないか。そういった気持ちの中でやってもらいたいというのはありますよね。

編集部:重松社長、本日先生のお話を聞いた上で改めて今思うこと、感じること、自分が歩んできた初期からも含めてどうでしょうか?

重松社長:今日、先生のお話を聞いて、一番印象的だったのは経営者も絶えず勉強していかないといけないといった部分です。日々、自分自身も身をもって体感していることですし、企業規模が大きくなればなるほどその領域が増えていく。あと、私はどちらかというと突っ走るタイプですが、それだけではダメだと感じています。会社を成長させる、会社を守っていく、この両方を常に考えながら会社を経営していかないと、これから先、勝ち残っていくのは難しいと思いました。今日は色々なお話を聞くことができ、ものすごく勉強になりました。これからも勉強をし続けながら、より良い中小企業、ひいては大企業を目指して頑張っていこうと思います。今日はお忙しい中、ありがとうございました。

【まとめ】

今回は「中小企業の会社経営」というテーマでお二人に対談していただきました。“中小企業の専門家”である新井准教授の専門的な視点からの貴重なお話や“現役の経営者”である重松社長の抱いている想いや感じていることに触れられるよい機会となりました。

軽貨物運送業界は特に中小企業が多いと思います。そういった会社の経営者、従業員の方々にとってこの記事が有益なものとなってくれたら幸いです。

新井教授とMIRAIS重松社長