長谷川隆一(はせがわ・りゅういち)
株式会社MIRAIS 事業管理部マネージャー
2004年、自動車整備専門学校卒業後、日産系販売会社に入社。整備士として5年間勤務し、2008年に退職。2008年、軽貨物業界に入り、株式会社FOX(現MIRAIS)を重松・氏家と共に立ち上げ、宅配・企業配・ルート配送等、多くの配送現場で経験を積む。その後、支店長や車両部門の責任者を歴任。2022年、車両管理やガバナンス構築を主とする事業管理部のマネージャーに就任し、現在に至る。
「私の“やりがい”」と『配送王』のつながり
私は20代半ばに個人事業主となり、横浜市で軽貨物運送業のキャリアをスタートさせました。周りの友人たちが会社員として働く中、そうした友人たちとは違う環境に不安と虚しさを感じながらのスタートでした。キャリアスタート時はなかなか収入も得られず、金銭的にとても苦労したことを今でもはっきりと覚えています。
ただ、これは後々になって実感することですが、幸運なことに私は周りの人たちに恵まれていました。素晴らしい仲間たちのお陰で、徐々に軽貨物運送業という仕事にやりがいを見出せるようになっていきます。やりがいを感じながら働く中で、個人的には金銭的な苦労が落ち着き、また、FOX(現MIRAIS)としても成長軌道に乗っていく中で、様々な同業者やドライバーとの出会いが生まれていきました。
一方で、様々な軽貨物事業者と接する中で、軽貨物運送業界に対して「一般常識が通じない」、「感覚が違いすぎる」といった負の感情も徐々に芽生えてきました。また、この業界の負の部分にも触れ始め、業界に対する疑念も強くなっていきました。さらに、配送事業者という職業としての社会的地位の低さも痛感し、私自身、やりがいを喪失しかけるという心境に陥ります。当時も今も「当たり前のことを当たり前にこなせない」、「相手の気持ちになって物事を考えることが難しい」、「仕事を丁寧にこなせない」といった軽貨物事業者が多くいるのは事実だと思います。
そうした業界の負の側面を知り、やりがいを喪失しかけていた私が、なぜ、改めてこの仕事に「やりがい」をもつことができたのか。その一番の理由は、配達先のお客様に感謝されることや、尊敬してもらえているという実感を得られる体験を数多くできたからです。
こうした体験が私のモチベーションとなり、「業務効率や接客、荷扱いなどの業務水準を上げたい」という向上心を抱くようになりました。「より良い配送業務」について深く考え、実践するということを継続していくうちに、後輩ドライバーや同業者にアドバイスもできるようになっていきました。「より良い配送サービスをお客様へ」という私の考えを理解してくれる人は多くいました。こうして自分だけではなく、周りの人たちも業務に対する理解やサービスの質の向上を目指すようになってきていることを感じたときに、私自身、業界全体やMIRAISに関わる全ての人々に、この感覚をもってもらいたいと強く思うようになってきました。そして、それが私の軽貨物運送業に対する「やりがい」になりました。
それは、まさにこの『配送王』のコンセプトそのものであると思います。当時はWebメディアを作る時間や知識がなかったため、「業界全体のサービスレベルを向上させる」というのは、私の中だけでの考えや想いでした。それがWebメディアを作り、社会に発信できるようになったことは大変嬉しいことだと感じています。会社の成長を感じると同時に、大きな責任が伴うことも実感しています。
「軽貨物運送業の社会的地位向上」のために必要なこと
大げさではなく、運送業は人類にとって極めて重要な「インフラ的職業」だと私は思っています。そこに自分自身、プライドももっています。しかしながら、社会全体ではまだその認識まで至っていないというのが率直な感想です。社会的インフラであるにも関わらず、軽貨物運送業の社会的地位が向上しないのはなぜなのでしょうか。
様々な要因があると思いますが、私は先述した、
「当たり前のことを当たり前にこなせない」、「相手の気持ちになって物事を考えることが難しい」、「仕事を丁寧にこなせない」配送事業者が多くいる。
ということが大きな要因だと思います。
こういった配送事業者が多い原因としては、良くも悪くも「業界への参入障壁が低い」ことが挙げられます。貨物軽自動車運送事業は、「軽貨物車両1台、運転手1名、事務所は自宅でも申請可」など、事業としてかなり参入しやすい業界であります。それは業界の労働人口が増えやすいというメリットはありますが、一方で、手軽さゆえにサービス品質が悪く、また、安易な事業運営を行う配送事業者を生む可能性を高めてしまうという側面もあります。こうした配送事業者の存在により被害を受ける荷主やドライバーが存在するのも事実です。
実際に、コロナ禍でも「仕事」が多くあった軽貨物業界には、他業種からたくさんの人材流入がありましたが、「最初の話と違う」、「長時間労働すぎる」、「全然稼げない」などですぐに軽貨物業界を離れてしまった人が数多くいます。もちろん配達業務自体が大変だということはあります。ただ、「考えて、工夫して、考えた事を繰り返していれば成果は徐々に出てくる」ということをしっかりと伝えない、または、伝えられない配送業者が少なからずいることから、結局は人材流出を招くこととなり、結果として業界の見られ方が改善されないことに繋がってしまっています。
また、業者だけでなくドライバーにも課題はあると感じています。例えを出すと、「軽自動車の運転をするだけだから大型トラックと違い簡単だろう」と安易に考えてこの仕事を選ぶ方がいます。確かに運転は簡単です。しかし、小回りが利くがゆえに考えなければいけないことや注意すべきことが多々あるのです。生活道路や細い路地への侵入、配達物をより多く捌くこと、渋滞を回避できる方法を探すなど、大型トラックとはまた別の課題や工夫すべきことが多くあります。軽自動車だからこそできることは意外にもたくさんあるのです。
軽貨物ドライバーは、配達先へどう効率よく配達するかを毎日考えなければなりません。こうした考えをもつドライバーがまさに軽貨物ドライバーとしての「プロ」であり、また、その思考の積み重ねが高品質の配送サービスへと繋がるのです。
私自身もそうだったように、もちろんそのようなことを始めから知っている人はいません。ましてや他業種から参入してきた業者やドライバーは、「軽自動車だから簡単だろう」と思うのが自然だと思います。
だからこそ軽貨物配送業者には、こうした意識をもつドライバーに対して、大変さや考えることの多さ、その分のやりがいや成果といったあらゆることをしっかりと教える責任があります。そうしなければ、ドライバーは成長しないし、結果、長続きもしません。
決してMIRAISが完璧な企業とは思わないし、そのことも理解しています。しかし、少しでも良い企業になり、良い業界へと変革させるための努力をしているとは自負しています。ただ、私たちだけがこの業界を良くしようと努力をしても、その力は弱く、業界全体が良くはなりません。やはり、同業者やドライバーの協力が必要不可欠なのです。
まずはMIRAISが少しでも良い手本となれるよう努め、そして、1社でも多くの同業者、1人でも多くの軽貨物ドライバーと力を合わせて、軽貨物運送業の社会的地位の向上を実現していきたいと強く思います。
経験から学んだ「教育」の重要性
私自身もこの業界に入った当初は捌ける荷物の数は少なく、当然、その分収入も少なかったため苛立ちや絶望感がありました。案の定というべきか、先述した業界的な事情もあり、引継ぎも満足いくものではなかったため自力で能力を伸ばす他ありませんでした。幸い「どのようにすれば効率良くできるか」という考えが私には多少あり、試行錯誤を繰り返しました。そこから2~3年経験を積み、自信もつき始めたころに新しい現場の依頼があり、私はその新現場で稼働することになります。
それまでの経験と自信から「とりあえずこなせるだろう」と思っていましたが、結果は散々…。隣のエリアの協力業者に手伝ってもらう始末。この現場をすごく辞めたかったことを今でも覚えています。しかし、私はその現場を辞めませんでした。むしろ、その「辞めたい現場」は、やがて私にとって「楽しい現場」に変わることになります。
その現場では、前任者や元請け業者の方々が毎日のように細かくアドバイスをくれたのです。時には厳しいことも言われましたが、めげずに続けました。約2ヶ月間、そのような手厚いフォローもあり、その配送現場での一人前の働きをするまでに成長することができました。私はその配送現場を約3年間稼働し、後任者に引き継ぎました。
稼働した3年の間に、時には現場内で上位に入るくらいの個数を配達できるレベルになり、その分収入も相応に多く受け取ることができるようになりました。最初にしっかりと教育をしてくれた方々には、まさに“感謝”の一言しかありません。
また、この現場では「配達は時間に追われるもの。しかし、その中でいかに自分の時間をつくるかがポイントだ」ということも教わりました。自分の時間をつくることで品質に目を向ける時間ができ、荷扱い・接遇・身だしなみといった配送品質の向上に繋がっていきます。私自身、それを実行し成果を出すことができました。ドライバーとしては「自分の時間をつくること」、そして、管理者としては「ドライバー教育」の大切さを実感することができました。
「自分の時間をつくる」ことで配送品質が向上し、その結果、配達先からお褒めの言葉をいただき、それがまた次の自身の活力になる。今振り返ると、その頃の自分はまさに「ゾーン」に入っていたと思います。捌く数が絶望的に膨大な量の時、「どのように捌こうか」とワクワクしたし、数が少ないときは隣のエリアのフォローをすることで自分自身の配達個数を伸ばせるようにもなりました。教育を通して「辞めたかった現場」が「楽しめる現場」に変わった瞬間でした。
こうした自身の経験から言えることは、
ドライバーが仕事にやりがいを感じられるようになったり、長くこの業務を続けていこうと思えるようになるには、ドライバー自身だけでなく、周りの環境が重要であるということです。
今のご時世、業界的には人手不足が原因で、新人ドライバー1人に対して引継ぎや教育の時間を十分に確保することは難しいかもしれません。しかし、高いドライバー定着率や品質の向上を実現するためには、「良い教育者」が絶対に必要なのです。
理想の実現に向けて
良い教育を基盤として、ドライバーが「現場に長く定着する⇒業務中に自分時間を作れる⇒品質を考える時間ができる⇒品質が向上する」というサイクルを業界全体でつくることができれば、この業界が社会全体からより尊重され、「生活にとって配送は最も重要な仕事である」としっかりと認識されるのではないでしょうか。また、こうした機運が運賃を向上させることへと繋がり、軽貨物運送が「高収入の仕事」となり、労働人口が増え、人手不足の解消にも繋がっていくのではないかと考えます。
しかし、その理想には当社含め、まだまだ業界全体では到達できていないというのが現状です。その理想を実現するために、このWebメディア『配送王』を通して多くの人にこの業界のことを知っていただきたいと強く思います。
他にも、MIRAISグループとしては、配送業務以外においてもMIRAIS Techが運営する『PAYS』(業務委託料前払いサービス)に代表されるように、業界内の課題を1つ1つ解決していくことで、よりこの業界を活性化していきたいという想いもあります。まだまだ理想の実現に向けた道の途中ではありますが、今後もMIRAISグループの活躍を期待していただけたらと思います。よろしくお願いいたします。