昨今のコロナ禍によって、人々の生活様式の変化や働き方の多様化が進むなど、様々な場面でこれまでとは変わったものが増えてきています。これからの会社経営は、そのような社会情勢の変化に対して柔軟に適応しながら、持続的に成長させていくことがより求められてきます。事業運営という観点からみると、基幹事業に加えて、日々起こる変化から生じる新たなニーズに応じた新規事業を立ち上げるなど、多角的な事業展開をしていくことも会社経営にとっては重要性が増してくるかもしれません。

そこで今回は、多角的経営を実践されている軽貨物運送会社の二人の社長に、複数の事業展開をする理由などについて対談形式でお話をうかがってきました。普段から交流のあるお二人の対談は、終始和やかな雰囲気でおこなわれ、貴重な意見を聞く良い機会となりました。


岩本社長PROFILE
プロフィール

岩元 竜二(いわもと りゅうじ)
JMB株式会社 代表取締役社長

2016年にJMB株式会社を設立。軽貨物運送業を主な事業として、その他にアパレル事業や飲食店(焼き鳥屋、ラーメン店等)、車両販売、認定整備工場、ドライバー向けの寮の運営など、多角的な経営を展開。

重松社長PROFILE
プロフィール

重松 宏志(しげまつ ひろし)
株式会社MIRAIS 代表取締役社長

岩元社長(JMB株式会社)と重松社長(株式会社MIRAIS)の出会い

岩元社長と重松社長1

ーー編集部:まず初めに、お二人の出会いについて教えてください。

重松社長:神奈川県内での同業者間の繋がりをつくるために、昔から付き合いのある同業者の方とお互いにパートナー企業を集めて懇親会をやろうという話になりました。そして、その会にきてくれたのが岩元社長でした。私の率直な第一印象は、「なんだ、この不愛想なやつは…」

ーー編集部:あの…、一応、お断りしておくと本日は岩元社長がゲストですので…

重松社長:あっ、すいません。つい、いつものノリで話してしまいました。
それでは気を取り直して…岩元社長の私の第一印象はどうだったんでしたっけ?

岩元社長:詐欺師。(一同爆笑)

ーー編集部:お互いに第一印象は良くなかったんですね。

重松社長:第一印象は最悪ですね。

ーー編集部:その最悪だった印象は、どのタイミングで変わるんですか?

重松社長:あるゴルフコンペがあって、終わった後に打ち上げがあったんですね。それこそ岩元社長の焼き鳥屋さんで。その時に初めてまともに喋ったんですけど…喋ってみたら本当にいい社長さんだったんですよね。熱い想いがあるし、私としては“ドライバー想い”というところに強く共感しましたね。

岩元社長:私もその時に印象が変わりました。そこから一気に仲良くなりましたね。私が社員と飲んでいたら急に連絡がきて、「りゅうじ!飲み行くぞ!」って。すぐにそんな感じの仲になりました。
今では本当に出会えて良かったと思っています。私の性格はどんどん突き進むタイプなのですが、重松社長に相談して意見をもらうことで、違った視点や考え方を得ることができて、「冷静に考える」というタイミングをつくることができるようになりました。出会えたことで自分が良い方向に変われた部分が本当にあります。

重松社長:詐欺師からの脱却ですね。

軽貨物以外の事業をはじめた経緯について

ーー編集部:じっくり話してみて、お互いに良い意味で第一印象と本質が違うということがわかって仲良くなったということですね。では、ここから本題に入りますが、お二人とも軽貨物運送業を主としてやりながら、それ以外の分野での事業も展開されています。軽貨物以外の事業をはじめられた経緯をお聞かせいただけますか?

重松社長:私は21歳から軽貨物運送をやっているんですが、この業界は課題が山積みだとずっと感じていました。例えば、支払いサイトが長く、その影響でドライバーが定着しづらい。慢性的に”人不足”という課題があります。そういった業界全体で抱えている課題を解決したいと考え、IT事業を運営する子会社「MIRAIS Tech」を設立し、一つ目のサービスとして業務委託料前払いサービス『PAYS』を開発しました。
あとは、軽貨物業界に関する正しい知識を同業者、荷主、さらには一般の方にも理解してもらいたいという想いで、Webメディアであるこの『配送王』の運営もやっています。

岩本社長2

岩元社長:私は軽貨物以外では最初、飲食店からはじめました。そこからアパレル、寮、車両販売、認定整備工場と展開していくことになるのですが、それらをはじめた動機として大きかったのは、弊社で働く人が「衣食住」に困らないようにしたいと思ったからです。私自身、「衣食住」に困った経験があったので、ドライバーには同じ思いをさせたくなかった。会社事業として取り組むことで、ドライバーに対して飲食店では食事を安価で提供できたり、借り上げアパートを寮として使うことで住居を安く提供できたり、また、アパレルでは私服、制服を幅広く提供することができます。

岩元社長と重松社長2

重松社長:そういった働く人の環境を整えることで「求人を増やしたい」という狙いもあったんですか?業界が抱える”人不足”という課題に対しても、とても意義がある取り組みだと思うのですが。

岩元社長:そうですね。それはありました。

重松社長:実際、求人は増えました?

岩元社長:増えましたね、2割増くらい。

異業種に挑戦する気持ちと苦労したこと

ーー編集部:会社として働きやすい環境を提供することで、ドライバーの定着に繋げていくということですね。 次に、ITであったり、アパレルであったり、軽貨物とはかけ離れた“異業種”に挑戦する時の気持ちや苦労した点等があれば教えてください。

岩本社長3

岩元社長:アパレルは知り合いとはじめたんですが、お互いに初めてのことなので探り探りやっている感じですね。あまり気負わずに、「問題があったら都度、修正してまた試してみる」、これを繰り返している感じです。

JMBグループ オリジナルアパレルブランド「REPLY」

重松社長:私の場合は「業界の課題を解決したい」という強い想いで立ち上げたんですが、いざやってみたらわからないことだらけ…というよりも、何がわからないのかがわからない…スタートはそういった状況でした。新規事業を立ち上げる方法や方向性を明確にしていくのが本当に苦労しましたね。また、リリース後も想定していなかったことが発生したりするので、絶えず改修を繰り返しています。

ーー編集部:うまくいかない時のメンタル状態はどのような感じだったんですか?

重松社長:サービスを開始した以上、そこに先行投資もしているのでリリースしてすぐに「やめる」という選択肢はない。落ち込んだり、悩んだりというよりは“どうやって良くしていくか”、ここだけをとにかく徹底的に考えてやっていました。

岩元社長:私も特に落ち込むということはなかったですね。やってみて自分なりに感じることもあったので、「次はこうしてみよう」とか、前向きに楽しみながらやっている感じです。

重松社長:実は以前、私も飲食店をやったことがあって…今はもう閉店しているんですけど。その時も仕入先やドリンクの種類など、何もわからない状態ではじめました。私の場合、新しいことをはじめる時ってポジティブなことばかり考えてしまうんですよ。でも、この飲食店の撤退を経験して非常に勉強になったのが、「いつまでに、ここまで辿り着いていなかったら撤退する」という選択肢を持っていないといけないということです。
より良くするための努力は絶対に不可欠です。でも、“やめ際”のラインは別でしっかりと考えてもっておくべきです。先にこのラインをもっておかないと、取り組んでいる時は必死にやっているので、事業がうまくいっていなくても“やめ際”がわからず、ズルズルといってしまうので。

事業を多角化していくメリット

ーー編集部:シビアな判断をする選択肢もしっかりもっていないといけないということですね。次に、様々な事業に取り組まれている中で「多角化するメリット」はどういったところにあると感じられていますか?

岩元社長:私の場合は、とにかく「衣食住」にこだわって事業を展開して、ドライバーが働きやすい環境をつくりたかった。その延長線上で焼き鳥屋やラーメン屋など業態を増やして展開していますけど、それは今のところ正解なのかは正直わからないです。

重松社長:でも、所属ドライバーの配送エリアを中心に店舗展開をしているから、いいコンセプトだなと思いますけどね。私は、軽貨物運送だけではもつことができなかった新たな視点を得られたことが非常に大きなメリットですね。業種が「IT」というのもあったと思うんですけど、私の中で「世界が変わった」くらいの大きなインパクトがありました。例えば、『PAYS』をはじめたことで日本全国、どこにある軽貨物業者でもMIRAISグループのお客さんになり得るという可能性が生まれました。それは配送だけをやっていた時にはもてなかった視点なので。自分自身が新たな視点をもてたことは、今後を考えても本当に大きな収穫だったと思います。

岩元社長と重松社長4

岩元社長:いいですよね、全国で通用するものって。弊社でもそういった事業展開をしていきたいと思っていて、ラーメン屋ではスープを真空パックにして飲食店向けや来店していただいたお客様向けに販売しています。特に今後、飲食店向けに拡販していけると名前も知られていくと思うので。将来的には弊社の運営店舗は1店舗にして、他はフランチャイズでの展開にしていくのが理想ですね。アパレルもネット販売を展開することで、全国のドライバーはもちろん、一般の方々にも広く買っていただけるようにしていきたいです
ね。軽貨物事業と合わせて、飲食やアパレルも拡大していきたいです。

今後の展望について

ーー編集部:重松社長の今後の展望はいかがですか?

重松社長2

重松社長:先程お伝えしたような全国に展開できるサービスをこれからもどんどんやっていきたいですね。コロナ禍でMIRAISとしても業績にかなり影響がある中で、色々なことをもう一度考え直す良い機会にもなりました。そうした過程において、私の中では「より多くの人を笑顔にしたい」という気持ちが強く芽生えてきました。軽貨物業界に限らず、様々な業種の方も笑顔にしていきたいと思っています。

MIRAIS公式 YouTubeチャンネル『しごとの授業』

すでに取り組んでいることとしては、“働いている人を笑顔にしたい”という想いから、『しごとの授業』というYouTubeチャンネルを開設しました。「どの仕事を選んだらいいかわからない」、「仕事の実態がわからない」といった声が世の中的にはあると思うので、各職業の実態に迫るようなチャンネルにしていくことで「人と職のミスマッチ」を減らし、笑顔で働く人を増やしていきたいと考えています。このような形で、多岐にわたって新しいことにチャレンジし、ひとりでも多くの人を笑顔にしていきたいと思います。

まとめ

今回は「軽貨物運送会社が実践する多角的経営」というテーマで、軽貨物運送会社のお二人の社長にお話をうかがいました。ITやアパレルといった軽貨物業界とはかけ離れた印象のある業種で事業展開をされているように思いますが、その根底には、“ドライバーへの働きやすい環境の提供”や“軽貨物業界の課題解決”といった軽貨物業界への熱い想いがあるということがよくわかりました。今後も両社の様々な挑戦に注目していきたいです。

岩元社長と重松社長6

取材協力

JMB株式会社
https://jmb-ltd.co.jp/