様々な課題を解決するために開発される「ITサービス」。MIRAISグループにおいてもITサービスを開発し、事業展開しています。軽貨物運送業界特有の資金面での課題を解決すべく開発された『PAYS』、煩雑になりがちな軽貨物配送の管理業務における諸課題を解決すべく開発された『SUNNYS』。どちらのサービスも軽貨物業界をより良くしていきたいという想いから生まれたものです。

今回は、この2つのサービスの開発を依頼させていただいたアイブリ株式会社の橋井社長に、サービスが生まれた背景や苦労したことなどについて対談形式でお話をうかがいました。「軽貨物運送」と「IT」、それぞれの視点からのお話は非常に興味深く、今後新しくサービスを生み出していく際に配慮すべきポイントなど、多くの気づきを得ることができる良い機会となりました。

プロフィール
アイブリロゴ

橋井 芳高(はしい よしたか)
アイブリ株式会社 代表取締役社長

2000年に有限会社アイブリッジ(現アイブリ株式会社)を設立し、事業を開始。サイボウズオフィシャルパートナーとして、サイボウズの各種サービスに関連した様々な開発案件を受託。

橋井社長との出会い

アイブリ株式会社 橋井社長

ーー編集部:本日はよろしくお願いします。早速ですが、お二人の出会いから教えていただいてもよろしいですか?
橋井社長:最初はサイボウズのkintone導入の相談を受け、それをきっかけとしてMIRAISさんと関わらせていただくことになりました。

重松社長:そうでしたね。弊社の担当から橋井さんを紹介していただき、打合せをして、その流れで食事に行かせていただいたのが最初の出会いでした。御社はサイボウズオフィシャルパートナーですし、橋井社長はサイボウズ立ち上げの際、かなり尽力された方じゃないですか。そんな方が初めてお会いした時に「MIRAISさんはサイボウズの昔の頃みたいだ。久しぶりに応援したい会社に出会った。」と言ってくださったんです。それがすごく嬉しかったのを覚えています。

橋井社長:私もすごく覚えています。ものすごいエネルギーを感じました。

重松社長:実は最初、私はすごく構えていたんですが、橋井社長がものすごく気さくな方で冗談も言ってくださったりして。本当に人柄が素晴らしい方だなというのが最初の印象ですね。

「ITサービス」の開発側と依頼側 それぞれが大切にしていること

アイブリ株式会社 橋井社長

ーー編集部:ITサービスを開発する際に大切にしていることはどういったことですか?

橋井社長:これは創業の時からずっと変わらないんですけど、「IT」というのは“目的”ではなく“手段”というところ。そこだけはずっと変わらずに大事にしていますね。「何の為にやっているか」、目的を達成するための手段のひとつが「IT」だという心構えでいます。これは会社を起業した時からの理念になっています。

ーー編集部:“目的”になってしまうと、どういった負の側面があるんですか?

橋井社長:“作ること”が目的になってしまいます。「こういう技術がすごい」とか、「ああいう技術がすごい」、「こういう画面がすごい」とか、そういう方向に走ってしまうんですけど、使っている方が本当にそれでいいかはわからないし、お客様にとってバリュー(価値)がないと意味ないじゃないですか。価値を感じないものにお金は出さないと思うので。

重松社長:今仰ったように、“目的”になってしまうとお客さん目線ではない開発になってしまうということですよね。

橋井社長:そうですね。

重松社長:僕も依頼する側として、「こういうことをやりたい」というのを細かく具体的に共有することは大切だなと思っています。そうしないと、僕らが想定しているものとは違うものができてしまうということにもなりかねないので。

『PAYS』開発について

PAYS業務委託料前払いサービス|株式会社MIRAIS Tech

ーー編集部:業務委託料前払いサービス『PAYS』について、開発のきっかけを教えてください。

重松社長:業界の様々な課題を感じている中で、特に大きいのが「資金面」の課題です。ドライバーが売上をもらえるのが、締めてから60日後というケースもあります。この場合、ドライバーによっては最大90日間、燃料代などの諸経費を立て替えなければならない期間が発生してしまいます。それが参入障壁になって、この業界で働くことを断念する方が非常に多いと感じていました。実際、前払いを希望される声も非常に多かったですし、弊社所属のドライバーも前払いを利用していました。こういった声に応えられる仕組みを作ることができれば、業界の人手不足解消に貢献できるのではないかと、そういう想いで『PAYS』を開発しました。

アイブリ株式会社 橋井社長

ーー編集部:苦労された点に関してはいかがですか

重松社長:苦労した点ではないんですが大きな出来事としてあったのは、開発することが決まった後に改めて幹部で集まり、「これは本当に我々がやるべきサービスなのか」について徹底的に話し合うということがありました。『PAYS』は業務委託料前払いサービスですが、実は同じ様なサービスは既に存在していました。「他社で先にサービスを展開しているのであれば、自分達が同じようなサービスを作る必要があるのか」、「我々はどういう想いをもってこのサービスを作るのか」、こうした議題について、丸二日ほど会議室に缶詰めになって議論をしました。

結論としては、導入していただく企業にも人材流入といった面で貢献できると感じたことや、他社にはない独自の機能をつけることでドライバーの負担を軽減できるしくみを発想できたことから、開発を進めることになりました。

具体的には、他社サービスでは基本的に前払手数料をドライバー側が負担していましたが、『PAYS』では企業側が全部または一部を負担することができるという機能をつけました。これはどこもやっていない機能です。これであれば、自分たちが作る意義があると思いました。苦労した点というより、“一回立ち止まったこと”は開発する上で大きな意味があったかなと思います。苦労した部分でいうと、開発が進む時々で「あれ、これはどうする?」という課題が常に出てくる。サービスができた後も不具合が出たりして、リリース当初は常に改修している状況にあったというのは苦労した点ですかね。

ーー編集部:橋井社長へはどういった流れで依頼されたんですか?

重松社長:開発会社も何社かお話をさせていただいたんですけど、なかなか私たちが求めるシステムの開発をできる会社が見つからなかったんです。そういった中で社内システムの開発をお願いしていた橋井社長に相談したら、「全然できますよ」とお返事をいただいたので、すぐにお願いさせていただきました。

橋井社長:なんで「できますよ」って言ったのか覚えてないんですけど…。

アイブリ株式会社 橋井社長

一同笑

ーー編集部:そうだったんですね。実際に開発が進んでいく中で苦労されたことは何かありますか?

橋井社長:どうだったっけな…。

一同笑

橋井社長:一番はセキュリティ面ですかね。やっぱりお金を扱うというところが、私達にとっては「怖いな」っていうところなので。「お金」をどうやって保護するかというのは苦労しましたね。あとはアンドロイドとiosでプッシュ(通知)がうまくいかなかったですね。まあ、でも実際に苦労していたのは菊地君(担当エンジニア)だから…

一同笑

重松社長:セキュリティに関してはテストをしっかりやってくれたんだろうな、というのは感覚としてとてもありました。他に相談していた開発会社からは「多分できるけど、お金を直接扱うようなシステムは怖い」と言って断られたので。実装して、リリースするところまでもっていくというのは、あらゆるパターンを想定してテストすることが必要だったと思うんですよね。そう考えると、すごいものができましたよね。

橋井社長:菊地君がね(すごい)。

一同爆笑

一一編集部:今、どのくらいの利用企業、ユーザーの方がいらっしゃるんですか?

重松社長:今は利用企業170社、ユーザー2,000人弱の登録ですね。おかげ様で着実に利用企業数もユーザー数も増えている状況です。

『SUNNYS』開発について

一一編集部:続きまして、軽貨物運送向けの業務管理システム『SUNNYS』(配車業務や締め作業を効率的に行うためのシステム)について、開発のきっかけを教えていただければと思います。

重松社長:『SUNNYS』を開発するきっかけになったのは、社内で起こった問題を解決したいと思ったことなんですよ。今でもExcelとスプレッドシートだけで配車や売上の管理をしています。試行錯誤をしながら、必死にやりくりしていたんですが、限界を超えてきているのは感じていました。それに加えて、請求や支払いの間違いといった経理的なミスも生じていたので、それを解消したいと思ったのが開発のきっかけです。

一一編集部:最初は社内向けのシステム開発の予定だったんですか?

重松社長:そうですね。ただ、開発を進めている中でインボイス制度、電子帳簿保存法、フリーランス保護新法などに対して、法に則った形で対応できるシステムができそうだなという手応えがありました。業界ではこれらへの対応で苦労される企業も多いのではと感じていたので、このシステムができれば、社内の課題解決だけでなく、外販を通して業界全体の課題解決に貢献できると思うようになりました。

一一編集部編集部:苦労された点としては何かありますか?

重松社長:苦労した点としては、テストを行う際の入力作業ですね。実際にシステム内に様々な配送情報を入力して、きちんと請求書と支払いに反映するのかをチェックしました。本当にあらゆる配送案件パターンが存在するので、そのパターンをすべて入力するというのがものすごく大変でした。

また、テストした結果をアイブリさんに対してフィードバックするんですが、「ここをこうしてください」、「ここを改善してください」という要望を出して、修正・再構築していくという。ここの積み重ねもとても大変でしたね。

橋井社長:うちとしても軽貨物業界独特のパターンに慣れるのが非常に大変でしたね。正直いまだにわからないところもある…。これはなかなか独特なので、理解するのがものすごく大変でした。

重松社長:業界のことを知らない開発側に対して、どこまでしっかり業界のことを共有できるか、理解してもらうかというところは、開発していく上ではすごくポイントになってくるってことですよね。

橋井社長:そうですね。

重松社長:ひとつ質問なんですけど…。『PAYS』は画面の構築や仕様の策定は難しくないけど、セキュリティ面での難しさがある。一方で『SUNNYS』は、セキュリティ面での難しさはそこまでないけど、様々なページや仕様の策定がある。こういった場合、どちらの開発の方が難しいんですか?

橋井社長:開発の観点からいくと、『PAYS』の方が「気をつけること」や「目指すべきゴール」がわかるので、弊社の“範疇内”なんですけど、『SUNNYS』に関しては、ゴールがわからなかったんですよね。「どうなればいいんだろう…」という感じでした。作ること自体はそこまで大変ではなかったと思いますけど、“目的”を理解するのが大変でした。

重松社長:そういう意味では、やはり我々がもう少し適切な情報提供をしたり、理解してもらえるような伝え方をしなければいけなかったですね。自分たちですら、「ここが抜けていた」ということもあったので。依頼する側の責任として、やりたいことを整理しきった上で伝えないといけなかったですね。

「ITサービスの開発」における“軽貨物業界ならでは”の特徴や課題

一一編集部編集部:最後になりますが、ITサービスの開発において、他業種と比べた「軽貨物業界ならでは」の特徴や課題は何かありますか?

橋井社長:業務の流れ的にシステム化するのがなかなか難しいですよね。例えば、金額が未確定の(配送後に決まる)配送案件など。

重松社長:確かにそこは独特の商習慣なのかもしれないですね。

橋井社長:ルールがないからこそ、システム化する難しさはあると感じますね。

一一編集部:重松社長からは何かありますか?

重松社長:私は他業種のITサービスの開発に携わったことがないのでわからない部分も多いんですけど…。他の業種に比べて細かいことが多過ぎるんじゃないかなと思っています。携わっている自分たちですら、抜け漏れがあったりするので。同じ仕事だけど運賃が違うとか配送した後に運賃が決まるとか。そのすべてのパターンを網羅しようとすると、システムとしてはどうしても複雑になると思います。だからこそ、エンジニアさんと我々とがしっかりと想いを共有して、的確な情報交換をしていくことが他の業種における開発よりも必要になるんじゃないかなと思います。また、MIRAISとしては、この『SUNNYS』で軽貨物業界のルールや基準を作り、軽貨物運送業の標準化を実現したいと思っています。

橋井社長:皆さんならできると思います。インフラを作ったら“勝ち”じゃないですか。こだわって頑張ってください!

重松社長:そうですね。インフラを構築できたら“勝ち”というのはどこの業界でもそうだと思うので、『SUNNYS』を通してそうなれるように頑張ります!あと、今は『PAYS』、『SUNNYS』だけですけど、実は構想の中では新しいシステムの開発も考えています。業界をより良くしていきたいという想いは私だけじゃなく、弊社スタッフみんなももっています。まだまだこれからたくさんのサービス開発をお願いしていくことになると思うので、引き続きよろしくお願いいたします。

橋井社長:ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いいたします。

まとめ

今回は、「軽貨物運送業向けITサービス開発」というテーマでお話をうかがいました。様々な場面での課題を解決するための「ITサービス」。今回の対談を通して、ITサービスの開発を進める上で大切なのは依頼側と開発側が同じゴールを描くことだと感じました。依頼側は常に丁寧な解説を心がけ、的確な情報を提供していくことが非常に重要だということがよくわかりました。またそれと同時に“想い”を共有することもとても大切であると改めて気づかされました。当然ですが、この想いが一致していなければ“目的”がズレてしまい、正しいサービスの形にはならないと思います。依頼側と開発側が「想いを共有し、同じゴールを目指す」、これがより良いITサービスを開発するためには必要不可欠な要素だと感じました。

この記事がITサービスの開発を検討されている方にとって、有益なものとなれば幸いです。

アイブリ株式会社 橋井社長

取材協力

アイブリ株式会社
https://aibri.co.jp/