加賀谷徹(かがや・とおる)
株式会社MIRAIS 戦略人事部長
1994年、高校卒業後、レストラン企業に就職。サービングマネージャーを務めたのち、横浜の飲食店で店長として勤務。その後、2005年に独立し、「炭火焼肉Dining心処」を開業、飲食店経営を経験。2015年、株式会社FOX(現MIRAIS)に入り、フリードライバー、支店長代理、人事部副部長を歴任。2017年に戦略人事部長に就任し、現在に至る。
FOX(現MIRAIS)との出会いと人事部での歩みの始まり
6年半経営していた飲食店を閉店する際、当時お付き合いがあった保険屋さんから「車の運転免許さえあれば稼げる仕事があるよ」と紹介をいただき、とある軽貨物業者に所属したのが私の軽貨物業界との出会いです。その軽貨物業者は、大手宅配業者の業務を請け負っていました。当時は週休1日で、勤務日は朝6時から夜22時まで1日16時間以上働くという日々でした。「やればやっただけ稼げる」との思いで、様々な方に支えていただきながら日々の配送業務を行っていました。
そのような日々が3年ほど経った頃、私の体調を心配してくださった顔なじみの車屋の社長さんから、「別の軽貨物業者を紹介するよ」というお話をいただきました。その後、私はその軽貨物業者に所属することになるのですが、その時に紹介していただいた軽貨物業者こそが株式会社FOX(現MIRAIS)でした。
FOXに所属した当初、私が請け負った仕事は「企業配」と呼ばれる業務で、宅配業務に比べると稼働時間が格段に短く、配送内容も易しいものでした。そのように感じられたのは、宅配業務を経験させていただいたおかげだと思っています。
その後、私は固定の現場に入るのではなく、フリーのドライバーとして様々な配送業務を経験させていただきました。さらに、FOX所属から半年ほど経った頃には支店長代理というポジションを与えられ、配車業務などの内勤業務も務めるようになりました。
そして、2016年9月には人事部副部長を命じられ、人生で初めて“人事”のお仕事に携わることになったと同時に、私の人事部での歩みがこの時スタートしました。
FOXの労務環境
人事部配属当初の主な業務は、新規ドライバー様の募集や面接、採用の可否判断や契約書の管理などでした。私としては、“我々の軽貨物業界への想いに共感できる方”という軸を常にもちながら採用活動を行っていました。また、採用活動だけでなく、未経験者で配送業務のコツを掴めずに伸び悩んでいるドライバー様がいたら、現場に出向き横乗り研修も実施しました。他にも、ドライバー様との勉強会や食事会を企画・運営するなど、人事部配属当初は「対ドライバー様」にフォーカスした業務のみを行っていました。
したがって、「社内の労務環境」には気をとめておらず、タイムカードやシフト表といった社員の労務状況を把握する術がないにも関わらず、当時の状況を「これが軽貨物業界の常識だ」という認識で捉え、勤務しておりました。今となっては信じられないことです。
また、出勤時間も退勤時間もあいまいで、業務に応じて社員それぞれが“なんとなく”出退勤時間を決めていました。さらに、当時は残業という概念がないため、「長い時間働いている者が“頑張っている”」と評価されるような風潮があったようにも思います。
余談ですが、飲食店では当たり前だった「開店前と閉店後の清掃業務」のような環境整備に関する決まりがなかったことは、就任当初から不思議に思ってはいました。
MIRAISの労務環境改革
そして私は、2017年の9月に戦略人事部の部長に就任します。ここから私の様々な挑戦が始まりました。
1 ターニングポイント
人事労務の仕事に携わる中で、私にとって大きなターニングポイントになったのは、「第一種衛生管理者の取得」という予算を会社から与えられたことでした。
もともと勉強を楽しいと思ったことのない私が、国家資格を取得するなんてことは想像すらできないことでした。そんな私でしたが、資格取得のための勉強の仕方や方法を筒井副社長に相談させていただいたことをきっかけに、“学ぶことの意義”と“学ぶことの楽しさ”が少しずつ芽生え始めました。この挑戦に対してどんどん前向きな気持ちになっていったことを今でも鮮明に記憶しています。その時の勉強を通じて、人事部に必要な基本知識である「労働基準法」や「労働安全衛生法」、「労働生理」を学んだことで、バックオフィスの管理者としての第一歩を踏み出したように思います。
2 顧問社労士
さらに、社労士の先生にMIRAISグループの顧問になっていただくことで、様々な疑問を直接うかがえる環境もできました。私が毎月1回の面談で大切にしたのは、“ありのままのMIRAIS”を伝えるということです。ありのままの現状を伝えることで、今のMIRAISの真の姿や状況をまずは把握していただく。その上で顧問社労士から指摘された課題を一つ一つ解決することが、“コンプライアンス遵守の労務環境改革”につながると信じて取り組みました。今でもこの「正直に、ありのままに」というスタンスは大切にしています。
3 働き方改革
2019年4月からの「働き方改革関連法」の順次施行もあり、MIRAISとしてもスピード感をもって労務環境改革に取り組む必要がありました。
まずは「労働時間の客観的な把握」をするために、一ヶ月変形労働制のもとでの勤務時間管理を始めました。勤務時間管理を行うことで社員の働き方が可視化されたと同時に、長時間労働の実態と長時間労働が原因で起こる勤務間インターバルの不足が露呈しました。
また、当時からMIRAISは年5日の年次有給休暇の取得を義務化していましたが、ある社員がこの義務を果たすために、申請上は有給休暇としているものの、実際は有休取得日に「無断出勤」して業務をしていたということもありました。
このような様々な問題を目の当たりにした私は、こう決意をします。“必ずこの労働環境を是正する。そして、社員一人一人が楽しみながら仕事をすると共に、自分や家族とのプライベートの時間も充実させることができる労務環境をつくる”ちなみに矛盾しているようですが、私がワークライフバランスを保つことができる働き方を実現すると決意することができたのは、その対象がMIRAISという会社だったからとも言えます。MIRAISという会社は、「働いている皆とその家族の笑顔を第一に考える会社」だと、私は当時から強く感じていました。だからこそ、「この会社ならできる」と信じて、決意を固めることができたのだと思います。
この決意のもと、MIRAISが抱える諸課題に正面から向き合い、一つ一つ解決していくことで、MIRAISにおける働き方改革を着実にすすめていきました。(当時、長時間労働をしている社員に注意や指導をして、とても嫌な顔をされたのを覚えておりますが、今となってはそれも良い思い出です。)
4 就業規則の改定
さらに私は、「就業規則の改定」にも挑戦しました。就業規則とは、労働条件に関することや職場内の規律などを定めた会社のルールブックです。
社労士や役員との打合せを何度も何度も重ねることで、MIRAISらしい就業規則を制定することができました。MIRAISの人事労務の根幹をなす就業規則の改定を完遂することができ、戦略人事部長としての責務を果たせたことに安堵したと共に、すごく達成感を感じることができました。
5 人事部社員セミナー
人財教育に関しても取り組みを行っており、「人事部社員セミナー」と題して、年に6回、社員向けセミナーを開催しています。このセミナーの講師は私が務めており、私自身が勉強をし、スキルを磨きながらの挑戦になります。筒井副社長にもご指導いただきながら「伝える」ことの重要性を学ぶなど、日々精進しています。
セミナーを実施するにあたっては、テーマの選定や内容の学習、精査、研修資料の作成など、準備することが多岐にわたります。もちろん、セミナーには社員の貴重な時間を割いて出席してもらうため、その時間を無駄にしないために事前準備を入念に行い、意義のある内容にしなければなりません。こうした想いを私自身が大切にしながら、社員それぞれが社会の中で堂々と活躍できるビジネスパーソンになれるよう、これからも精一杯取り組んでまいります。
6 BCP
今期挑戦したのは「BCP」の策定です。大規模災害が起こった際の「事業継続計画」であり、今後しっかりとBCPに関するPDCAを回していくことで、災害時の事業継続と社員の安心安全を担保していきたいと思います。
人事労務の観点から「当たり前」に備えるべき制度や運用の構築からステップアップし、BCPのように「万が一の有事」に備えるための制度構築ができたことは、会社のガバナンスレベルが向上してきた証左であると実感しています。
MIRAISグループにおける戦略人事部の“ビジョン”
-世界中の人々を笑顔に-
これがMIRAISグループ の使命です。私はこの使命を聞いた時、とても感動しました。
この使命を達成するために、私一人ができることはとても小さいと思います。
しかし、「MIRAISグループで働いている社員とその家族が笑顔になれば、関わる人々にその笑顔が派生して新たな笑顔を生み出す。その新たな笑顔の輪が次々と広がることで、より大きなうねりとなり、さらにたくさんの人々を笑顔にしていく」こうしたMIRAISグループの社員の笑顔を出発点として生まれるたくさんの笑顔を想像すると、とてもワクワクした気持ちになります。「社員の“笑顔”」はすごい可能性を秘めていると思うのです。
こうした想いから私が掲げたビジョンが「社員だれもが“笑顔”になれる労務環境の実現」です。
そのためには、“MIRAIS版心理的安全性”が担保される職場環境の構築が必要だと考えます。心理的安全性とは、「他者からの反応に怯えたり、羞恥心を感じたりすることなく、自然体の自分をさらけ出せる環境」と言われています。しかし、“自分をさらけ出せる環境”が全ての面において良いとは思っていません。あくまでも、チームのメンバーに対する最低限の配慮がベースになくては、組織として円滑には機能しないと思います。
そこで私が考案したオリジナルの心理的安全性が“MIRAIS版心理的安全性”です。具体的には「個人の個性・発言・存在が尊重される労務環境」を構築することです。これにより、「誰もが生き生きと自分の考えや思いを発信でき、かつ、メンバーへの思いやりの心をもつことで、互いに配慮し助け合える」という“笑顔で働く”ことができるチームになっていくと考えています。
社員にとって職場が「自分らしくいられる“もう一つの居場所”」となり、「出社することが楽しい!と感じられる環境」になることで、「社員だれもが“笑顔”になれる労務環境の実現」というビジョンを達成していきたいと思います。
最後に
最後になりますが、軽貨物運送業界はまだまだ発展途上の業界だと思います。業界への参入障壁が低いことで、誰でも簡単に独立開業ができます。(私もその一人でした!)一方で、参入しやすい反面コンプライアンスが守られていない企業が多く存在することも事実であり、中には厳しい労働環境で働かれている方もまだまだ多くいると思います。これは軽貨物業界が抱える大きな課題の一つであると認識しています。
あくまで企業は「人」です。人がいなければ「もの」、「かね」、「情報」は集まりませんし、意味をなしません。それだけ「人」は企業にとって大切な存在なのです。
我々MIRAISグループが軽貨物業界における人事労務の健全化に向けたリーディングカンパニーとなり、そして、この業界で働く全ての人々が“笑顔”で働くことができるようにこの業界を変革させられるよう、MIRAISグループの人事労務の管理者として、これからも全力で努めていきたいと思います。