AI技術の急速な進化により“AIバブル”ともいわれる現代。ビジネスのシーンでは変動・不確実・複雑・曖昧などといった状況への対応力が求められ、企業が抱える課題も一層複雑になっています。その中で“リーダー”の在り方も大きな転換期を迎えているといえるでしょう。

今回は美容サロンを15年以上経営されている株式会社Grantierの大野かなえ社長を迎え、現代のリーダーに求められる「課題解決と人を動かす力」についてお話をうかがいました。
性別も業界も異なる二人の経営者は、どのように課題に向き合い、人材を育成してきたのか。ぜひ、ご覧ください。

プロフィール

株式会社Grantier
代表取締役

大野 かなえ(おおの かなえ)

2009年にプライベートサロンをオープンし、2010年、株式会社Grantierを設立。その後ネイル、マツエク、エステとトータルで美容をプロデュースするgrantier tortalbeautyを設立。自身のダイエットの経験から、現在はインナービューティー事業も展開している。

お二人の出会いと交流のきっかけ

ーー編集部:本日はよろしくお願いします。まず、お二人の出会いから教えてください。

大野社長もともと重松社長が私の主人の友達だったんですね。で、ある時に私の主人と重松社長が食事をしているところにお邪魔させてもらって会ったのが、最初ですね。

重松社長その時のことはすごく覚えています。ご主人と食事をさせてもらっている時に「後でもう一人来るから」って言われていたんですよね。そしてちょっとしたら、ものすごい綺麗な人が店に入って来て、それが大野社長だったんですよね。合ってます?

大野社長合ってます(笑)

一同:笑

重松社長そこからは家に遊びに行かせてもらったり、何人かでお酒を飲みに行ったりといった感じで交流させてもらっています。

大野社長共通の知り合いも多かったので、徐々にご一緒する機会も増えていったという感じでした。

編集部:起業されてからはどのくらいですか?

大野社長私が25歳の時に独立したので、15年以上経っていますね。

重松社長早いですね!

大野社長そう、早いんですよ。それまでは勤め人としてサロンで働いていたんですけど、行き詰ってしまって辞めたんですよ。辞めてからは少しだけゆっくりしましたが、“いよいよお金がなくなり働かなきゃ”というタイミングで独立しました。

起業の経緯と「ガムシャラ」だった独立初期

ーー編集部:独立されて経営者としての歩みを始めた頃、ご自身の“リーダー像”についてはどのように描かれていましたか?

大野社長私はもともと美容師になりたいと思っていました。実際に働いていた時期もありました。でも、美容師として独立して働くイメージがどうしてもできなかったんですよね。そういった時にマンションの一室でやっているネイルサロンにお客として行った時に「これだ!」と思いました。マンションの一室で一人でやっていくイメージだったので“リーダー像”については全く思い描いていなかったというのが正直なところですね。とにかく一人で必死に頑張るという感じでした。

編集部:ガムシャラに駆け抜けてきたという感じなんですね。

大野社長そうですね。ここ何年かは少し緩やかな働き方になってきていますけど、独立してから10年位は休みもなく本当に駆け抜けてきましたね。休むのが怖かったですし…。

重松社長すごくわかります、それ。

大野社長店に深夜2~3時くらいまで残って仕事をしている時もありましたね。

重松社長私も2~3時まで事務所にいて6時から働き始めるみたいなことをやっていました。本当に辛かったけど、今ではその時の経験があって良かったなと思っています。

大野社長私も同じです。もう同じことはやりたくないですけど、その時の経験があって本当に良かった。

編集部:重松社長が描かれていた“リーダー像”としてはいかがですか?

重松社長私の場合は起業した時に近くにいた先輩がものすごく格好良かったんですよ。私が質問したことに対して、即座に的確に答えてくれるような頼れる経営者の先輩がいたんですよね。「こういう経営者になりたい」と思っていました。あと、私は『ONE PIECE』のルフィが大好きなんですよ。ルフィのような“仲間想いの頼れる船長になりたい”という想いが強かったですね。

大野社長私の場合はこれまでを振り返ってみると、近くに“良い手本となる先輩”や“この人みたいになりたい”と思える人に出会わなかったかもしれないです。

重松社長ネイルの業界は先輩に教えてもらうという感じではないんですか?

大野社長そうですね。どちらかというと“見て学ぶ”という要素が強いかもしれないですね。特に当時は。なので、独立後に従業員が増えてきた時にはしっかりと目線を合わせて教えてあげられる存在になりたいと思っていました。

重松社長過去の経験があったからこそ、そういう想いになっていったんですね。

経営において大切にしている価値観と信念

ーー編集部:経営されている中で大切にされている価値観や信念を教えてください。

大野社長嘘をついたり、誤魔化したりはしないと決めています。もちろんお客様に対してもそうですし、協力会社の方や自分の技術に対しても。関わっていただけている方々とは“WIN-WINな関係”であるべきだと私は思っています。お客様に対しては、料金を頂戴しているからには、それに見合った技術・サービスを提供しなきゃいけないと思っていますし、協力会社の方に対してもお付き合いして良かったと思ってもらえるように接することを心がけています。社員に対してもそういう姿勢で向き合っています。事業を通じて、私だけが得するわけではなく、みんなが勝てるようなやり方をしたいと思っています。

重松社長関わってくれる方々に対して誠実に対応していくということは大切ですよね。

大野社長ネイルやエステなどの「技術職」と言われる分野では、商品があって、細かく値段が決まっているという料金体系ではないんですよね。コースの料金はありますけど、その内容が細かく決まっているわけじゃない。そうなってくると誤魔化して料金を上乗せすることもできてしまうんですよね。でも、それをやってしまってお客様に違和感を感じさせてしまった瞬間に一気に信頼関係は崩れてしまうから、そういうのは絶対にしないと決めています。

重松社長私も重複する部分はあるのですが、もちろん会社を経営している上では“お金”は絶対に大事なのでしっかりと利益を出さなきゃいけない。その利益を出すためにもやっぱり信頼関係がめちゃくちゃ大事だなと思っています。お客さんもそうだし、協力会社の方や社員等、関わってくれる人との信頼関係。そこがないと結果的に企業が求める利益は出せないのかなと思っています。

現場で直面するトラブルと再発防止の考え方

ーー編集部:経営されているとトラブルや課題に直面することもあると思いますが…

重松社長ちなみに美容サロンではどういったトラブルが起こるんですか?

大野社長一番多いのは、接客に対するトラブルですね。お客様から辛辣な口コミを投稿されることがあります。「最悪でした…」とか「下手でした…」とか…。

編集部:新規のお客様も多くいらっしゃると思いますので、常に対応には難しさが伴いますよね。そういった際はまず何を重視して考えますか?

大野社長そういう口コミをもらった時はすごくショックですし、書かれてしまった担当者もショックを受けていると思います…。でも、書かれてしまったものは仕方ないので、何がいけなかったのかをしっかり話し合います。「いつもこういうところがあるから、お客様にはこう見えちゃったのかもね」など。一つひとつ紐解いて、分解して、理解して、改善していくしかないので。

重松社長そうですよね。私も同様で“再発防止”するためにすべきことをしっかりと整理して考えます。事象が起きてしまったことは仕方がない。ならば次にそうならないためにどうするか。ここが大事ですね。

大野社長そうですね。良い機会をいただけたと捉えて次に活かしていくしかないです。

個性に合わせたアプローチと挑戦を促す環境づくり

ーー編集部:社員の方やチームの成長を促す際に意識していることを教えてください。

大野社長ある社員の話なんですけど…。入社した当初、誰とも全く喋らなかったんですね。お客さんとの会話を全くしないし、社員同士でも喋らない。本当に喋らなくて…。あまりにも喋らないから「愛想が悪い」等のクレームが何件も続いた時期がありました。その時は先程も言った通り、要素を整理して、分解して、改善していけるように何回も話し合いを重ねました。色々と話をしましたが、それでも直らなかったですね。そこで思い切って、接客する際のセリフを全部私が考えました。

重松社長えぇ!そうなんですね!

大野社長接客する上で必ず言わなければならないフレーズを入れて「会話マニュアル」を作り、それをひたすら実践してもらいました。晴れていたら「今日、天気いいですね」、雨が降っていたら「お足元大丈夫ですか?」。いただいたクレームの中には“返事をしない”というのが多かったので、お客様から何か言われたら「ありがとうございます」と返事をしようと話をして。

重松社長いいですね。

大野社長一つ私からその社員にお願いしたことは、お客様のことを必ず一個は褒めること。髪型でも履いている靴でもなんでもいいからとにかく何か一個は褒める。こういったことを意識してもらって実践を重ねていくうちにどんどん変化していってくれて、今ではとても素敵な接客ができるようになりました。私のお客さんからも「あの子、変わったね」と言っていただけるようにもなったので。

重松社長“人材育成”においては一人ひとりの特性に合わせたアプローチが重要なんでしょうね。

大野社長そう思います。何も言わなくてもできちゃう人もいますし、一から全部伝えなきゃいけない人もいる。その人達に合ったやり方でやっていくことが重要だと感じました。

編集部:重松社長は何かありますか?

重松社長:私の場合は「失敗を恐れず挑戦できる環境づくり」ですね。私は行動しないと成長しないと考えています。ですが、“失敗したくないから行動しない”という人は結構いると感じています。

大野社長確かにその傾向はあるかもしれないですね。

重松社長行動した結果、もちろん成功してほしいんですけど、失敗もしてほしくて。失敗した方が学びは多いと思いますし、その失敗から得た学びを通して成長してほしいと思うので、とにかく行動できる、挑戦できるような環境をつくるようにしています。

編集部:具体的にはどういったことをされていますか?

重松社長“接し方”を特に意識しています。まず「挑戦する」という行動そのものを大切にし、しっかりと称賛します。挑戦には成功も失敗もつきものですが、たとえ結果がうまくいかなかったとしても、気持ちを切り替えて次にいけるようにサポートしていきます。もちろん再発防止については丁寧に話し合い、改善策を一緒に考えます。人によっては一度失敗すると、次の挑戦に踏み出すハードルが上がることもあるかもしれません。それでも、新しい挑戦を歓迎し、全力で協力します。挑戦する姿勢を尊重し、その積み重ねが成長につながると信じています。

AI時代に求められる「人間にしかできない力」

ーー編集部:最後になりますが、昨今「AIバブル」といわれているくらい、様々な場面でAIが活用されています。こういった急速な変化の中でこれからのリーダーに求められることは何だと考えられますか?

重松社長私は“人間にしかできないこと”が求められていくと思います。例えば、共感することや、意思決定をすること。こういった要素は人間にしかできないと考えています。ですので、しっかりと“人”と向き合って共感すること、信念をもって決断できること、AIであふれる時代だからこそ、“人間にしかできないこと”の価値は高まっていくと思っています。

大野社長人間の感情はAIには代替できないですよね。私も似ていますが、「傾聴力」と「判断力」が求められていくと考えています。AIの急速な進化により社会が変化していますが、人間も変化していると私は感じます。私自身が働き始めた頃、上司からは特に意見を求められることもなく、指示・命令は“必ずやらなければならない”という感じでした。ですが、今は多くの企業で社員の自発的な意見や想いを尊重する傾向があると感じています。社員の意見をしっかりと聞いた上で物事を進めていく。上から指示を出すのではなく、みんなの中心にいて様々な意見を聞いた上でしっかりと判断ができる能力が必要だと思います。

重松社長経営していると答えの無い中で判断していかないといけない。選択肢がいくつもある中でどれを選んでも間違いではないんですよ。その中でも経営者はどれかを選択しなければいけないし、自分で選んだ道を信じて、これが正しかったと思えるために努力する。そういった“人間にしかできないこと”は残っていくと思うし、必要なことだと思いま す。

まとめ

今回は、「課題解決と人を動かす力」というテーマでお話をうかがいました。男女の経営者、異なる業界で経営を続けてきた二人の対談はとても興味深いものでした。大野社長が語った嘘をつかない・誤魔化さない姿勢や、一人ひとりに寄り添った育成。重松社長が大切にする“挑戦できる環境づくり”と“信頼関係”。これらは、変化の激しい時代においても変わることのない“リーダーの条件”といえるのではないでしょうか。AIが急速に進化する中で、最後に残るのは「人にしかできない判断と共感」。二人の言葉は、これからの経営者の在り方に対しても、大きなヒントを与えてくれる内容でした。『配送王』はこれからもお二人の今後に注目していきます。