EC市場の急成長や労働制限に伴う「2024年問題」など、変わりゆく物流業を取り巻く環境の中で、常に物流の最前線である“ラストワンマイル”を担い続ける「軽貨物業界」。今や社会にとっても不可欠な存在になっています。
コロナ禍で社会に示した業界の底力。一方で存在する業界が抱える複雑化した課題。

今回はそんな軽貨物業界の現在地について、株式会社Trasaburouの嶽山社長をお招きして、MIRAISの重松社長と対談形式でお話をうかがいました。

軽貨物ロジスティクス協会でも理事を務める両社長の対談はとても興味深い内容でした。
ぜひ、ご覧ください。

嶽山社長
プロフィール

嶽山 新(だけやま あらた)

2013年に株式会社Trasaburou (トラサブロウ)を設立。軽貨物運送業をはじめ、車両リース事業など自動車関連事業を幅広く展開。軽貨物ロジスティクス協会の理事も務める。

嶽山社長と重松社長の出会い

嶽山社長

ーー編集部:本日はよろしくお願いします。まず、お二人の出会いから教えてください。

重松社長:共通の知り合いがいて、その方から「若くて勢いがある経営者がいる」と紹介してもらって会ったのが最初ですね。

嶽山社長:そうでしたね。私もその方から「神奈川エリアの運送で大きくやっている会社さんがいるから、一度会って話を聞いておいた方がいい」と紹介してもらったのがきっかけです。

重松社長:その時は仕事の話はもちろん、それ以外の話も幅広くさせてもらいました。その後は仕事面で一部、取引をしたり、やはり同業者として繋がっているのでお互いに仕事の相談をしたり。また仕事以外でも飲みに行ったりと、自然に交流の機会は増えていきましたね。

嶽山社長: 飲みに行きましたね(笑)

重松社長:距離感が一気に近くなったのは、私が軽貨物ロジスティクス協会(以下、「協会」)の理事になった時ですね。理事就任の打診をいただいた際、多くの方から連絡をいただきましたが、嶽山社長からも「一緒に理事をやって、業界盛り上げましょうよ」って連絡をいただいて。実際に理事を務めるようになってからは、急接近って感じでしたね。

嶽山社長:そうですね。必然的に月一回は会うことにもなりましたし。仕事の面でもうちのスタッフがMIRAISさんへお邪魔させてもらったり、逆にうちに来ていただいたり、会社同士のそういった交流も増えましたね。

重松社長:協会の集まりにうちのスタッフが来ることもありますし、Trasaburouさんのスタッフの方が来ることもありますしね。でも、嶽山社長はたまに来ないけど…。

嶽山社長:いやいやいや…たまぁにですよ、たまに。

「軽貨物業界」の成長や現状の課題

ーー編集部:次に、「軽貨物業界」の成長や現状の課題などについてご意見を聞かせてください。

重松社長:業界としてはやはりコロナで本当にガラッと変わりましたね。

嶽山社長:変わりましたね。

重松社長:当時うちはBtoBが中心だったので、荷物はガーンと減りましたし、主要荷主からも稼働制限がかかって、全然配送ができませんでした。そうした中で世の中的にはECサイトで買い物をする方が急激に増えました。大手宅配会社の荷物の個数を見ても年々増え続けています。BtoC向けの配送はかなり伸びていっていると思います。

そこに今度は「2024年問題」。今までトラックで運んでいたものを分解して、軽貨物運送で運ぶという、また新たな需要が増えてきていて、そっちも伸びていると個人的には思っています。嶽山社長はいかがですか?

嶽山社長:私もコロナは大きかったと思っています。うちはBtoCがメインです。当時はほとんどの方が在宅していたので、不在による再配達がほぼなかったですし、道路も空いていたのでドライバーさんも多くの荷物を運ぶことができました。コロナが明けてもBtoCは安定しているので、今にも繋がっている成長の部分ですね。

ーー編集部:課題としてはどういったところだと感じていますか?

嶽山社長:コロナの時期は飲食店やイベント会社で働かれていた方など、コロナで働けなくなってしまった業種の方がドライバーとして働いてくれていました。しかし、コロナが落ち着くと元の業種に戻られたり、違う仕事に就かれたりで、今は担い手が不足していると感じていますね。

あと、「品質」については課題だと感じることが多いです。コロナをきっかけに他業種からの参入が増えましたが、中にはドライバーさんへの教育が行き届いていない企業もあると思っています。

重松社長:そこは本当に大きな課題ですよね。先ほど言った通り、荷物は増えています。だけど担い手は増えていない、もしくは減っている。となってくると、このミスマッチをどう埋めるかになってきますが、結局は一人のドライバーさんが数多くの荷物を運ぶことに繋がってくる。十分に教育されていないドライバーさんが数多くの荷物を運ばざるを得ない状況になり、品質が低下してしまう。ここは課題かなと思いますね。

競合他社との差別化

嶽山社長

ーー編集部:会社ごとに品質にバラつきがあるというお話がありましたが、競合他社が増えている中でどのように他社との差別化を図っているか教えてください。

嶽山社長:差別化する部分を“金額”にはしたくないと思っています。

なので、うちとしては“教育”の部分に力を入れて取り組んでいます。

具体的にはドライバーさんに「クレドカード」という名刺サイズのカードを渡していて、そのカードの片面には弊社の「サービスバリュー」が7項目記載されています。

ドライバーさんには、朝の点呼時に弊社の管理者に対して、「今日は特に〇番に気を付ける」と宣言してから出発するようにしてもらっています。

また、カードの裏面には弊社のドライバーとして特に強く意識してもらいたい内容を、「ドライバーの心得」として記載しています。
私は、会社としてのフィロソフィーをドライバーさんに認識してもらうことは非常に大事だと思っていますので、こういった取り組みをしています。今のところ他では聞いたことはないかなと思っています。

重松社長:うちが会社として心がけていることとしては、

「満足いく環境で働いてもらうこと」ですね。

やっぱりいい仕事をしてもらうためには“環境”はすごく大事だと思っています。

では、「満足って何なの?」というと、例えば土日は休みたい人に土日働かせるような仕事をお願いすると当然のことながら不平不満が溜まりますし、夜は目が見えづらくなる方に対して夜間の宅配を依頼したら、当然ストレスが溜まっていくと思います。

なので、その人のニーズになるべく合った仕事を提供することを心がけています。そうすることで、「満足いく環境で働いてもらうこと」に繋げています。

ただ、そのニーズがドライバーさんの“わがまま”というケースもあるので、そこは十分に見極めながら、常識の範囲内で“満足いく仕事”の依頼をすることを一番意識しています。それが結果としてドライバーさんのいい仕事に繋がり、他社との差別化につながっていくと考えています。嶽山社長とは違った角度から品質の向上を目指していきたいですね。

顧客満足度についての考えと取り組み

重松社長

ーー編集部:軽貨物業界における「品質」の重要性はとても理解できました。では、品質以外の部分で「顧客満足度」についてどのように考え、取り組まれていますか?

重松社長:そうですね、「品質」以外で言うと、

スピーディに対応するようにしています。

荷主様から「台数を出してほしい」と言われた時に、二つ返事で「やれますよ」と返答するのは絶対に喜ばれますね。逆にそういったお話をいただいた時に「探します」、「やれませんでした」が一番困ると思うので。レスポンスの速さを求めている荷主様は多いんだなというのは感じますね。

ーー編集部:そうすることによって荷主様の中での優先順位も上がりそうですね。

重松社長:そうですね。「まず、ここに声をかけてみよう」となると思います。現場では実際そういう場面ありますよね?

嶽山社長:あります、あります。「いける?」、「なんとかします!」と言って受けてしまう。そうすると何とかするしかないので(笑)
でも、それがどんどん次の仕事に繋がっていくんだと思います。

ーー編集部:「受けても、なんとかなる」という姿勢や心構えが大切なんですかね?

重松社長:「伸びる会社は受ける」というのは最近すごく感じます。私の周りで伸びている会社はそういう姿勢で仕事を獲得していることが多いですね。
私の感覚では「到底無理だ」と思ってしまう案件だとしても受けて、なんとかしてしまう。会社規模や体制によってできること、できないことは変わってくると思いますが、「受ける」と覚悟を決めてやっている会社は伸びているところが多いと感じますね。

嶽山社長:「できなかったらどうしよう」と思ったら終わりですよね。それを考えてしま
うといけなくなってしまう。

重松社長:以前うちも、段取りが相当難しい案件を獲ってきた時に「誰が、どうやるんですか?やめましょうよ」と従業員から言われたんですが、「どうやるか今はわかんないけど、やるしかないっしょ」と言って、なんとかやり切りました。

でも、それをやり切って、ある程度利益が出た時には「やって良かったですね」となりましたね。

嶽山社長:絶対そうなりますよね。社内的に「あの時なんで“やめましょう”」って言ったんだろうって感じになることもありますからね。
「やる」と覚悟を決めていると、チャンスを引き寄せられる可能性は広がっていくんだと思いますね。

重松社長:なので、二つ返事で受けるということは、顧客満足度の向上につながるとともに自分たちにも良いリターンがあると思います。

従業員やドライバーさんとのコミュニケーション

ーー編集部:今も少しお話がありましたが、従業員の方やドライバーさんとのコミュニケーションにおいて特に気を付けていることを教えてください。

嶽山社長:私は常に「組織図」を強く意識するようにしています。営業所へ訪問することもありますが、その際ドライバーさんに対して気づいたことがあっても直接伝えるのではなく、担当の管理者へフィードバックするようにしています。
以前は直接指摘していましたが、そうすると私が行かないとできない状態になってしまっていましたし、組織として良くないと感じました。

管理者が“しっかりと指摘できる”

ドライバーさんもそれを“聞き入れてくれる”

そういった関係性を構築してもらいたいので、飛び越えての指摘はしないようにしています。
しっかり順序だって、上から下に会社としての方針や想いが浸透するように、逆も然りで、下から上に意見が上がってくるように、組織として機能するための立ち振る舞いは意識しています。

重松社長:従業員の方の役職や立場を尊重しているのもありますよね。

嶽山社長:そうですね。あと以前、直接指摘していた頃、ドライバーさんは「社長に言えば、なんとかなる」という考えになっていたと思います。そうすると私に気に入られるために仕事をしてしまう。それはサービスの本質からずれてしまっています。やはりお客様に喜んでもらうために仕事をしてほしいと思いますし、そうした人を評価したいと思うので、今は先ほどお伝えしたスタンスで接することを意識しています。

重松社長:すごくわかりますね。ドライバーさんの意見も聞きたいけど、入りすぎちゃうと組織として成り立たなくなってしまう。難しいところですよね。

嶽山社長:ドライバーさんの話を聞くなら、とことん聞かなきゃいけないし、それができないなら任せないといけない。コミュニケーションをたくさんとることが正しいと思っていましたが、やり方には工夫が必要だというのは、ここ数年ですごく学びました。

重松社長:企業として目指すゴールをどこに設定しているかによっても変わってきますよね。

嶽山社長:そうですね。

ーー編集部:重松社長はいかがですか?

重松社長:特に従業員とのコミュニケーションには時間をつくりたいと思っています。
数年前までうちは支店がいくつかありました。その時もオンラインで打合せをしたり、電話で喋ったりする機会はありましたけど、それだけだと会社の方針や私の本当の意味での想いを共有するのは難しいと感じました。コミュニケーションは時間の長さが全てではないと思いますが、うちの場合はあまりにもそのための時間が短すぎた。会社の方針、自分の想いを浸透させるためには、従業員とのコミュニケーションの時間をつくることが非常に大事だと実感しましたし、今も重要視していますね。

同業他社や新規参入の方へのメッセージ

嶽山社長

ーー編集部:最後に同業他社や新規参入の方へのアドバイスやメッセージをお願いします。

嶽山社長:この業界は、

“競合”にもなりますけど、“協業”もできる業界

だと思っています。

長年続けられている会社と創業して間もない会社が一緒に仕事をすることも可能ですし、ここはできるけど、ここはできないといった場合でも同業者同士で補い合える、すごくいい業界だと僕は思っています。

一方で、参入障壁が低いため、本当に様々な企業が存在する業界でもあります。組織体制がしっかりしていなかったり、不快な応対をされる企業があったりすることも事実です。
新規参入される場合は業界の良い面、悪い面を事前にしっかりと認識した上ではじめることが大事かなと思います。

ただ、繰り返しになりますが、協業して案件を無事やりきることができれば、みんなで良くなっていける業界です。協会でも活動させてもらっていますけど、みんなで業界を盛り上げようと様々な取り組みをしています。

業界を盛り上げたいという気持ちのある方がいたら嬉しいですし、ぜひ一緒に盛り上げていきましょう。

ーー編集部:ありがとうございます。重松社長お願いします。

重松社長:軽貨物業界には色んな団体があります。その団体に入ることで嶽山社長の仰っている“協業”できる幅は広くなると思っています。
実際にあった事例として、協会に所属している会社が獲得した大口案件で、うちもTrasaburouさんも一緒になってサポートしたということがありました。この業界でやっていくためにはそういう仲間をもつことはすごく大事だと思いますし、仲間を見つけるためにも、どこかの団体に入るのがいいと思います。いい団体に巡り合えれば会社の成長の近道になると思いますね。

ただ事前に、その団体がどういう目的で、どういうことをやっているのか、というのはしっかりと調べておかないといけないと思います。本当に様々な団体があって、中には自分たちのことしか考えていないような団体もあるので。
あとは、この業界は新たに参入した会社でも、やり方次第で大手の荷主様と取引できるチャンスがある業界だと思っています。

では、そのために何が必要なのか?というと、やはり先ほど言っていた「品質」を含む、管理の部分。人や情報などに関する管理水準を上げることによって、荷主様からの信頼が得られていくと思うので、そういった部分をきちんと構築していくことで大きなチャンスをつかむ可能性が高まり、会社の発展へと繋がっていくと思います。
偉そうなことを言える立場ではないですが、ぜひ興味がある方がいれば一緒に仕事ができると嬉しいです。

まとめ

今回は、「軽貨物業界の現状について語り合う」というテーマでお話を伺いました。
軽貨物業界はコロナ禍を経て大きく変革し、業界全体の需要が高まる一方、課題は複雑化しています。両社長の対談を通して、こうした現状に対する洞察と、未来を見据えた課題解決のための具体的な取り組みについてお話を聞くことができました。

「協業」を実現している軽貨物業界。

これからも社会のインフラを担い、存在感を放ち続けるために、企業間で手を取り合い、さらなる発展を業界全体で目指していく。今回の対談は、それを強く感じさせてくれるものでした。
『配送王』はこれからも、両社と業界の今後に注目していきます。