個人事業主のドライバーに業務を委託する軽貨物運送会社にとって、とても関わりが深く、重要な法律が2023年5月12日に交付されました。正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」で、通称「フリーランス保護新法」と呼ばれる法律です。
コンプライアンスという観点において、軽貨物運送会社はこの法律を正しく理解するとともに、実業務の中で法規定にしっかりと対応していく必要があります。しかしながら、「法律の名称を聞いたことはあるが、具体的な内容がわからない」という方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、この「フリーランス保護新法」について、弁護士法人やがしら船橋リバティ法律事務所の福田圭志弁護士にわかりやすく教えていただきたいと思います。福田先生、よろしくお願いいたします。
※この記事は、2024年6月時点の情報をもとに作成しています。
弁護士法人やがしら船橋リバティ法律事務所
福田圭志(ふくだ・けいじ)
弁護士法人やがしら船橋リバティ法律事務所所属
1983年、奈良県桜井市生まれ、千葉県千葉市育ち。
東邦大学附属東邦高等学校、法政大学、法政大学法科大学院卒業。
平成27年1月1日に弁護士登録(登録番号47705)。
所謂「街ベン」として企業法務、借金問題、離婚問題、相続問題に注力。
株式会社MIRAIS、株式会社MIRAIS Techの顧問弁護士を務める。
フリーランス保護新法の趣旨について教えてください。
近年、働き方の多様化が進展する中、個人が、フリーランスを含む多様な働き方の中から、それぞれのニーズに応じた働き方を柔軟に選択できる環境を整備することが重要となっています。
一方で、事業者間取引において、業務委託を受けるフリーランスの方々は、報酬の支払遅延や一方的な仕事内容の変更といったトラブルを経験する方が多く、かつ、特定の発注者への依存度が高い傾向にあります。そこで、こうした状況を改善し、個人が事業者として受託した業務に安定的に従事する
ことができる環境を整備する目的で本法律が制定されました。
フリーランス保護新法の概要について教えてください。
大きく分けて以下の2点になります。
- 取引の適正化を図る
発注事業者に対し、フリーランスに業務委託をした際の取引条件の明示等を義務付け、報酬の減額や受領拒否などを禁止 - 就業環境の整備を図る
発注事業者に対し、フリーランスの育児介護等に対する配慮やハラスメント行為に係る相談体制の整備等を義務付け
フリーランス保護新法の適用対象について教えてください。
適用対象は以下になります。
受託側
「特定受託事業者」
業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないもの(個人(フリーランス)、一人法人(従業員なし))
発注側(以下の二つに区別されている)
- 「業務委託事業者」
特定受託事業者(個人(フリーランス)、一人法人(従業員なし))に業務委託をする事業者 - 「特定業務委託事業者」
業務委託事業者の内、以下のいずれかに該当する事業者
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
※「従業員」とは
「週労働20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる者」を「従業員」とすることを想定されています。
したがって、週労働20時間未満の者や、30日以下の雇用しか見込まれていない者のみを雇用している場合であれば、本法の「従業員を使用するもの」に該当しません。
業務委託
- 事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造(加工を含む。)又は情報成果物の作成を委託すること。
- 事業者がその事業のために他の事業者に役務の提供を委託すること(他の事業者をして自らに役務の提供をさせることを含む。)。
※下請法(下請代金支払遅延等防止法)では、「修理委託」と「役務提供委託」に区別されていますが、本法では区別せず「修理委託」も本法の「業務委託」に該当します。
以上から、軽貨物運送会社がフリーランスや一人法人(従業員なし)に配送を委託している場合には本法律の適用対象となります。後記のとおり、委託者が「特定業務委託事業者」に該当するか否かで適用される内容が異なりますので注意が必要です。
フリーランス保護新法にて具体的に規定された事項にはどのようなことがありますか?
主な事項を、以下、「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」に区別して説明します。
1 業務委託事業者(個人(フリーランス)、一人法人(従業員なし))
特定受託事業者(個人(フリーランス)、一人法人(従業員なし))の給付の内容、報酬の額、支払期日等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない(3条)
2 特定業務委託事業者
- 特定受託事業者(個人(フリーランス)、一人法人(従業員なし))の給付の内容、報酬の額、支払期日等を書面又は電磁的方法により明示しなければならない(3条)
- 特定受託事業者から給付を受領した日から60日以内の報酬支払期日を設定し、支払わなければならない(再委託の場合には、発注元から支払いを受ける期日から30日以内)(4条)
- 特定受託事業者に対して、①~⑤の行為をしてはならない。⑥⑦の行為によって特定受託事業者の利益を不当に害してはならない(5条)
①特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく受領を拒否すること
②特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬を減額すること
③特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく返品を行うこと
④通常相場に比べ著しく低い報酬の額を不当に定めること
⑤正当な理由なく自己の指定する物の購入・役務の利用を強制すること
⑥自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
⑦特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく内容を変更させ、又はやり直させること
- 特定受託事業者に対して、広告等により募集情報を提供するときは、虚偽の表示等をしてはならず、正確かつ最新の内容に保たなければならない(12条)
- 特定受託事業者が育児介護等と両立して業務委託(政令で定める期間以上のもの「継続的業務委託」)に係る業務を行えるよう、申出に応じて必要な配慮をしなければならない(13条)
- 特定受託業務従事者に対するハラスメント行為に係る相談対応等必要な体制整備等の措置を講じなければならない(14条)
- 継続的業務委託を中途解除する場合等には、原則として、中途解除日等の30日前までに特定受託事業者に対し予告しなければならない(16条)
個人事業主に業務を委託する軽貨物運送会社はいつまでに対応すれば良いのでしょうか、また、対応するにあたり気をつけるべきことや注意点等はありますか?
本法は令和6年11月1日に施行されます。
そのため、それまでに準備を行う必要があります。
法律、施行規則が既に厚生労働省のHP等に公表されていますので、詳細をご確認ください。
本法において、実務上で一番問題となりそうなのは、報酬の支払い期日(60日等)(4条)であると思います。
まずは、自社が「特定業務委託事業者」に該当するか否かを確認し、該当する場合には現在の報酬の支払いサイクルを確認しましょう。
4条の規定に違反している場合には、速やかに同規定を満たすように支払いサイクルを変更していくことが必要です。いきなり急激な変更を加えると資金がショートするリスクが高いと思いますので、今のうちに徐々に変更を加えていくのが無難であると思います。
まとめ
福田先生、ありがとうございました。先述の通り、フリーランス保護新法の施行日は令和6年11月1日となります。軽貨物運送会社は、実業務の中で法規定にしっかりと対応するために、施行日までに必要な体制整備を行うことが必須です。
また、“委託者が「特定業務委託事業者」に該当するか否かで適用される内容が異なるため注意が必要”とのことですので、体制整備を行う上で、自身がどの業務委託事業者の種別に該当するのかを正しく理解することも重要です。
新たな社内ルールの設定や、運用の見直しなどが必要になることもあるかと思いますが、本記事を参考にして、法規定に則った運用を実現するようにしましょう。
\関連する記事はこちら/