慢性的な人手不足、再配達問題、支払いサイトの長さ…。軽貨物業界が長らく抱えるこれらの課題は、どうすることもできない課題として放置され続けてきたと言っても過言ではないかもしれません。
今回はそんな業界の課題に正面から挑んだ二人の経営者の対談です。
物流現場からキャリアをスタートさせた株式会社MIRAISの重松社長。
システム開発やITを軸に事業を構築してきた207株式会社の高柳社長。
バックグラウンドが全く異なるお二人から、ITサービス開発の苦労や葛藤、今後の展望などについてお話をうかがいました。ぜひご覧ください。

プロフィール

高柳 慎也(たかやなぎ しんや)

1989年生まれ。山口大学を卒業後、主にベンチャー企業にて訪問営業、Webシステムや受託開発のディレクションを経験する。2018年に物流ラストワンマイル領域にフォーカスした207株式会社を設立。

重松社長PROFILE
プロフィール

重松宏志(しげまつ・ひろし) 
株式会社MIRAIS 代表取締役

2004年、自動車整備専門学校卒業後、トヨタ系販売会社に入社。その後、不動産会社に転職し営業の経験を積んだのち、2006年に「赤帽ジェット便」を開業。スポット配送・宅配・企業配等、多くの配送現場に従事。その時の経験と、それまでに培った営業経験を生かすべく2008年、株式会社FOX(現MIRAIS)を設立。代表取締役に就任し、現在に至る。

お二人の出会い

ーー編集部:本日はよろしくお願いします。まず、お二人の出会いから教えてください。

重松社長学生時代の友人から「物流系でなんかすごく面白いやついるよ」と紹介されて会ったのが最初ですね。当時うちの会社はいくつか支店がありましたが、私の説明が悪くて私がいない拠点にお越しいただいてしまって…。

高柳社長そうでしたね、誰もいなかった気がします。私としても「遅れてしまって申し訳ない…」と思って。そこから急いでタクシーで向かいました。
実際にお会いした時の第一印象としては、めっちゃ爽やかな方だなと感じました。

ーー編集部:重松社長はいかがですか?

重松社長“この業界っぽくない”というのが第一印象ですね。当時、207さんはヤマト運輸や佐川急便と共同配送をして「再配達をなくす」ことを掲げている企業さんでした。発想や考え方、物事の捉え方、視点、全てにおいてこの業界の人っぽくないと感じましたね。

今でも覚えていますが、その時に思ったのは「高柳社長みたいな方と繋がっていかなければいけない」ということでした。それ以降、会う機会は増えたし、年は5つ違うんですが、敬語は抜きで「友達として本音で話そうぜ」みたいな感じで仲良くさせてもらっています。

高柳社長私としてもめっちゃありがたいですね。

重松社長若い頃からこの業界でビジネスをしていて、年上の方と会う機会が多かったですが、年数を重ねるにつれて年下の方にも会うようになってきました。

そうした中で年下の方から学ぶことがいっぱいあると感じ始めていました。それを特に思わせてくれたのが高柳社長です。様々な場面で純粋に刺激を受けました。

高柳社長私も同様に“この業界っぽくない”といった印象は受けたかもしれないですね。話されている内容が、それまで私が接してきた物流業界の方とは全く違う印象を受けました。具体的に言うと、重松社長は「物流だけではなく、他の領域にも進出しなければいけない」と仰っていたのですが当時、業界内の他の方からそういったことは聞いたことがなかったので。その印象は会うたびに強く感じるようになっています。

ITサービスを始めた経緯

ーー編集部:次にITサービスを始めた経緯を教えてください。

高柳社長元々、私は“物流畑”ではありません。消費者として受け取る際の不便さとか、再配達の非効率みたいなところを「テクノロジーで解決できるんじゃないか」という仮説のもと始めたのがこの会社です。

当初は消費者向けのプロダクトをやっていましたが、それはあまりうまくいかないということがわかったので、今は物流会社や配送員の方向けにアプリやSAASをつくって展開しています。

なので、きっかけは自分自身がユーザーとして感じた非効率な要素をITで効率化しようと思ったことですね。

ーー編集部:ユーザーとして不便さを感じる経験があったから、物流業界に向けたサービスを展開されたんですね。

高柳社長そうですね。さらに言うと、私は学生時代バックパッカーをやった経験があります。バックパッカーをやっている時って、2か月~3か月ほど平気で家を空けるわけですね。その空けている時は当然、部屋に誰もいないですが家賃はかかり続けていました。学生だったので家賃5万円の出費もすごくつらかったんですね。

家の中の物をどこかに預けて、いつでも取り出すことができたら、この家賃はかからないなということを学生時代に構想として思っていたんです。

今だったらトランクルームみたいなもので実現できますが、私としてはもう少しライトに使えるトランクルームをイメージしていました。そんな中で2015年頃『サマリーポケット』というサービスが出てきました。

私がやりたかったサービスと近いと思ったので『サマリーポケット』に話を聞きに行ったら、細かな流れは覚えていませんが、私がそこのPM(プロジェクトマネージャー)をやることになったんですよ。

『サマリーポケット』は寺田倉庫から出資を受けているので、倉庫の改善はもちろんのことエンジニアやデザイナーも多数在籍しているので、様々な要素の改善ができたんですけど、1個だけ改善できないポイントがありました。それが“物流”だったんです。

ヤマト運輸のプラットフォームに乗っていて、融通がきかないと感じることも多々あり、「物流ってこんなに不便なんだ」、「物流って面白いな」と思って深掘っていくと、先述の消費者目線で感じた非効率な要素があったので、「じゃあここから始めよう」となった感じですね。

重松社長今、話を聞いて改めて感じたけど、説明がうまくてわかりやすい。しかも、壁にぶつかった時に「面白い」と思えるのはすごいですね。

ーー編集部:重松社長はいかがですか?

重松社長私の場合は物流会社を運営する中で感じていた、支払いサイトの長さや人手不足といった業界の課題を解決したいと思ってITサービスを始めました。高柳社長はITから入って、リアルな部分を把握するために配送事業も始められましたけど、私の場合はそれとは逆ですね。

同じ“物流”、同じ“IT”なんですけど、自分とは違うアプローチでやられているのでいつもすごく刺激を受けています。

ITサービスを展開して感じたこと

ーー編集部:お二人ともそれぞれのきっかけがある中で、実際にサービスを展開されて感じたことはどういったことですか?

高柳社長そうですね。先程、重松社長からご紹介いただきましたが、うちはリアルな状況を掴むために実配送をおこないました。そこでは「こんな非効率なことをやらないといけないのか」という理不尽なものを感じました。そしてその“理不尽なもの”は大きなもので、変えることができない、または変えるのに時間がかかるというのを痛感しました。

私が最初に手掛けたのは「再配達をなくす」でしたけど、再配達って配達先が不在であることが事前にわかっていて、消費者との同意があれば配達時間をずらしても別にいいじゃないですか。極論は。

「でもそれはダメだ」、「約款上ダメ」とか言われて…。それは誰にメリットがあるんだろうみたいなのはすごく思ったし、そういうものがそれ以外にもいっぱいある業界だというのは感じましたね。

再配達に関して言えば、現状では無料じゃないですか。ですので、再配達を解決した時の原資がない。誰もお金を払わないのでビジネス化もできないという何か理不尽な辛さがあるなって感じでしたね。

重松社長私の場合は元々ITのことが全然わからなかったので、ちょっとずつ周りの人から教えてもらったり、自分で勉強したりしながらやってきましたが、“視野が一気に広がった”っていうのはありますね。

今までは、例えば神奈川で仕事をしている場合、案件はその周辺でしかとれないし、ドライバーさんもその周辺でしか集められない。だから東京や千葉、仙台に支店を増やしていって、その拠点の周りのお客さんやドライバーさんを集めるということをやっていたんですけど、ITって物理的な場所は関係ないじゃないですか。

1か所で、それがどこであろうと全国向けのサービスを展開できるというところは自分の中ではかなり衝撃でしたね。20年近く軽貨物の仕事をやっているのでギャップをすごく感じました。ITってすごいなと。

ITサービスを展開して苦労したこと

ーー編集部:サービス展開されていく中での難しさや工夫した点、苦労した点があれば教えてください。

高柳社長私たちの場合は自分たちで実配送をやることが一つの工夫の仕方だとは思っています。スタートアップとかITで実配送をやるというのは当時あまりありませんでしたが、それを私はいち早くやったので。そこは工夫したことに入るかなと思いますね。自分たち自身で、自分たちのプロダクトを使った方が、早く仮説検証を回せて、フィードバックも受けられるので、それは良かったと思っています。

他には、大手物流会社の経営陣と繋がってロビイングするだとか、国交省とかに行ってロビイングするということはやりましたけど、それでもやっぱりビジネスの原資がないから動かないっていうのは変わらなかったです。

工夫はしたけど、うまくいくことばかりではなかったですね。

あとは、工夫とまではいかないですが、“スタートアップ”という銘柄を見せるために、ピッチの大会とかにはよく出ました。そうすることによってメディアに露出して認知されやすくなったり、資金調達も以前より苦労しなかったりというのは、工夫してうまくいったことかなと思いますね。

重松社長私達の場合、最初に開発したのは『PAYS』という業務委託料を前払いできるアプリです。軽貨物運送会社様に導入いただくことで、その会社に登録されている個人事業主のドライバーさんが、日払いや週払いで報酬を受け取れるという仕組みをつくりました。

弊社が一時的に立て替えをするというサービスの特性上、債権回収ができない事象がいくつか発生してしまいました。導入いただいた企業が倒産してしまったり、様々な理由がありましたが、そこが特に苦労したことです.

そこを改善するために、しっかりと与信をして供与枠を決めるようにしました。それまでは「保険に入っているから、ある程度大丈夫」というふうに、外部の機関だけで与信をしていたものを、ある程度内政化して、外部の与信もするけど、内部でも与信をする。ですので、保険がおりても契約を断るケースも出てきました。そういった運用を構築したことが工夫した点です。

あとは、リスクが低いビジネスモデルを展開していく必要性も感じたので、『PAYS』以降はサブスク形態でのサービスを開発するようにしてきました。

サブスク形態の場合、大きな数字的なインパクトはないかもしれないですが、リスクなく安定的に売上を見込めるので、そこも工夫していると言えるかもしれないですね。

“やりがい”について

ーー編集部:お話を伺っていると大変なことも多いのかなと思いますが、やりがいはどういった時に感じますか?

高柳社長私が元々やりたかったことと接続していることを感じた時ですね。具体的に言うと先程もお伝えしましたが、バックパッカー時代に感じた「いつでも、どこでも、モノを預けられて、いつでも好きな時に取り出せる」みたいなことを将来的にすごくやりたいと思っていて、それの一つのソリューションとして物流」というものが重要だと思っているんですね。

なので、その「物流」自体が手段として、目指しているビジョンとの接続が見えた時がすごく興奮しますね。

「こうやったらうまくできそうだ」っていう戦略が見える時や「それを実行しよう」ってなる時にやりがいというか、モチベーションがすごく上がりますね。

重松社長うまくいった時はさらに嬉しくなりそうですね。

高柳社長うまくいくことが少ないので何とも言えないですけど、見通しがたった時点で既に嬉しいですね。あとは実行するだけなので。

ーー編集部:逆にどうなるかわからない時が一番つらい時期ということになるんですかね?

高柳社長そうですね。やっぱり戦略が見えない時や長期的な戦略とのアラインができてない時はつらい時期ですね。売上は上がったりもするんですけど、そんなに嬉しくなくて。

重松社長スケールできる見通しが立たないとワクワクしてこないって感じ?

高柳社長そうですね。スケールもそうですし、スケールした先の自分がやりたいビジョンとの接続が見えないと「何のために俺はスタートアップをやっているんだ」みたいな感じです。ビジョンとの接続が見えた時はすごく嬉しくてやりがいも感じますね。

重松社長なるほど。面白いね。

自分はオフラインの営業もするので、リアルにお客さんと接することも多いです。そうした時に「使わせてもらって助かってる」っていうふうに感謝されたり、それを利用してくれている人たちが笑顔になる機会に触れられたりすることは純粋に嬉しく感じます。

もっと言うと、この業界内において自分たちがつくったサービスの存在が当たり前になっていたり、業界がさらに良くなったことを実感できたりした瞬間は、本当に嬉しくてやりがいにつながりますね。

“バックパッカー”のお話

ーー編集部:話がそれてしまうんですけど、バックパッカーはなぜやろうと思ったんですか?

高柳社長明確な理由は特にないんですけど…高校生の頃から大学生になったら、海外に行こうって思っていたんですよ。

重松社長そういう行動力がすごいよね。

高柳社長「グローバルで何か大きなことをやりたいんだ」みたいに漠然とした感じで海外に行きましたね。

重松社長世界で色々な刺激を受けてその中で何ができるのかを模索しに行く旅って感じですか?

高柳社長:それまで海外には一回くらいしか行ったことがなかったので、とりあえず「色んな世界を知る」みたいな感じで行った気がします。

重松社長どの位の期間行かれたんですか?

高柳社長一回二か月ほどの滞在を三回ほど行きましたね。10数か国行ったと思います。

重松社長行って何をやるんですか?

高柳社長何をやるっていうのはないんです。街を歩いて文化にふれる。当時、スマホはないので、当然地図アプリも翻訳もない。場所によっては治安に対する不安もあったので、現地のインターネットカフェで調べたりしていました。

ーー編集部:本当にすごいですね。その時の経験は仕事をする上で活きていると感じますか?

高柳社長実際にはわからないですけど、活きているんじゃないかなと思っています。特に若い頃にそれをやれて良かったかなと今となっては思います。最初はインドに行ったんですけど、めちゃめちゃハードだっ覚えもあるし、具体的な内容は割愛しますが、壮絶な経験もしたので…。今後、それ以上ハードなことはないかなと思えるようになっています。

今後ITサービスで実現したいこと

ーー編集部:最後になりますが、今後ITサービスを通して実現したいことを教えてください。

高柳社長物流業界にはたくさんの“負”がある中で、それをITサービスで解決できると思っています。“負”を解決できるものをたくさん手がけていきたいと思いますね。

ーー編集部:今後も物流業界に特化してやられていくんですか?

高柳社長今は物流業界のことをやっていますが、私達がやりたいことはもうちょっと先にあるんですね。私は物流業だけでは限界があると思っているので、“物流”というものをベースに何かをレバレッジすることをやりたいと思っています。“物流”は何かを支えるだとか、何かを伸ばすために存在していると考えています。

ですので、物流事業者が“何かを売る”とか“ECを行う”ことはすごくいいと思っているんですね。Amazonも本質的にはそうだと思っています。物流サービスにすごく力を入れて、投資をしたことによって、競合他社と圧倒的に差別化できたと思います。なので、“物流業”を使って何かをレバレッジすることはできると思うし、そこがやりたいことでもあるので、その“何か”を今探しているという感じですね。

その前に物流業をもう少ししっかりとネットワーク化してやらないと無理だと思っているんですけど、目指しているところはそういったことですね。

重松社長さすがですよ。話聞いているだけでワクワクしてきます。

ーー編集部:重松社長はいかがですか?

重松社長そうですね。物流業界の課題はまだまだたくさんあると思うんですけど、そういうところは高柳社長に任せて、私は自分の会社の使命「世界中の人々を笑顔に」を実現できる何かをやっていきたいと思っています。

今うちが展開しているITサービスは「物流に関わる人を笑顔にする」という限られた範囲になっているんですが、その対象をちょっとずつずらしていきたい、変えていきたいと思っています。最終的には世界まで広げていきたい。どこまでできるか、何ができるかわからないですけど、ビジョンとしてはそのように考えています。

物流業界をやめるわけではなくて、これからも既存サービスの改修は行って、さらに付加サービスをつけていくことは絶えずやっていきますけど、それ以外のところでも色々と挑戦していきたいと思います。
私はバックパッカーの経験がないので、今年くらいから海外にもいって、世界の景色をみて、文化にふれて、そこで感じたものをビジネスに活かしていきたいと思っています。

まとめ

今回は「物流」×「IT」というテーマで経営者のお二人に話をお聞きしました。
それぞれの経験や視点が色濃く表れた今回の対談は、現場で培われたリアルな知見と変革への熱く強い想いが感じられるものでした。

課題に対するアプローチも対照的でありながら、「業界を良くしたい」というゴール(想い)は共通していて、思わず引き込まれる対談でした。そして何より、お二人が描く今後の展望には、今から期待が高まります。

『配送王』はお二人の挑戦と進化に今後も注目していきます。